神木隆之介に結婚を申し込む謎の老婆の正体は“79歳名女優”。90年代の名作から変わらない存在感
やっぱり宮本信子は宮本信子
本作ではそうした署名的な叫び声を全然あげないものだから、どこの老女優がでてきたのかと最初首をかしげてしまったのだ。現在79歳。令和のテレビドラマでは、怪獣的存在感を包み隠してしまったのかしら。 いやいやそんなことはなかった。やっぱり宮本信子は宮本信子なのだった。謎の老人・いづみは実はIKEGAYA株式会社の社長であり、玲央のホストクラブで大金を投じる。どうして初対面のホストに対していきなり太客になるのか。 いづみが若き日々を過ごした端島で、炭鉱夫の息子として働くようになった鉄平と玲央が瓜二つだったからである。彼女の遠い青春の記憶があざやかにオーバラップしながら、現在の東京と過去の端島が野木脚本世界としてクロスする。
伊丹十三監督作時代に特徴的だった語気の強め方
第1話終盤、玲央は常連客に逃げられ、支払い額をかぶることになる。いづみに救いを求めると、電話口の彼女が「あなた人生で本気で逆らってみたことある?」と柔らかくも語気を強めながら、語尾をクイっとあげる。そのあと、路上で酔いつぶれた玲央の元にいづみが現れ「人生変えたくないか?」と言う。 続けて「ここから変えたくないか?」と同じようなフレーズを口にする。宮本の台詞をよーく傾聴すると、2度目のフレーズで語尾の「か」が強調されている。これこれ。これこそ、伊丹十三監督作時代の宮本信子に特徴的だった語気の強め方だ。 筆者お気に入りの『スーパーの女』では、スーパーの専務役の津川雅彦相手に「お前、○○か?」というようにとにかく「か」に力拳を込めた疑問形を連発していた。当時のような力拳感は弱めながらも、神木に対する「変えたくないか?」でもひゅいっと投射する語気の強め方に深く感動してしまった。
年少俳優にとっての興行師的な役割
こうした往年の名優と現行俳優との見事な共演は、近年ではまれな出会いのひとつだと思う。筆者が他に思い付くのは、星由里子と横浜流星が共演した『全員、片想い』の一編「イブの贈り物」(2016年)くらいだろうか。 宮本信子と神木隆之介にしろ、星由里子と横浜流星にしろ、老優が決して脇にまわるわけでもなく、あくまで存在感を前面にしながら年少俳優の魅力を際立たせ、采配する興行師的な役割を担う。 宮本との共演場面ではないが、神木の演技が際立つ場面がある。第1話中盤、働き口を求めて端島にやってきたリナ(池田エライザ)に一目惚れした鉄平が、職員クラブ内で一度だけさっと振り向く瞬間。神木のこの振り向きを宮本が間接的にアシストでもするかのような映画的なきらめきがたしかに宿っているように感じた。 <文/加賀谷健> 【加賀谷健】 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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