女優・松下由樹、「好きな生き方でいい。頑張ったぶんも、サボっちゃったことも、自分の身になる」
15歳でデビューし、コンスタントに第一線で活躍している松下由樹さん。トレンディードラマからコメディーまで、さまざまな役を演じ続けてきた。演技があまりに真に迫り、“嫌われる”時期もあったことも。つらい時期をどう乗り越えたのか。AERA 2024年5月20日号より。 【写真】松下由樹さんをもっと見る * * * ■役者冥利に尽きる経験 常に明るく語る松下さんからは想像がつかないが、“嫌われる”時期もあった。出世作となった90年のドラマ「想い出にかわるまで」で演じた姉の婚約者を略奪する妹役が、あまりに真に迫っていたためだ。 「あのときは本当に嫌われました(笑)。テレビのスタッフさんからも、取材をしてくださる方からも、誰からも好奇な目で見られて。毎回、どういう子なんだろう、役と一緒なんだろうかっていう目から入ってくるっていう。もう、忘れられないですね。電車に乗っていて、知らない方に捨て台詞を吐かれたこともありましたよ。すごい影響力なんだなって思いました」 脚本家の内館牧子さんに、相談をしたことは? 「いえ。当時は、私がいちばん若かったので。それ以上に、話が話だったので、(姉役の)今井美樹さんも、(婚約者役の)石田純一さんも、みなさん、本当に大変だったんですよ。しんどい役って、体にもきますよね。もう、忘れられないスタジオの空気感とか、いっぱいありますよ。お姉ちゃん役の、今井美樹さんの、泣き声が響くシーンとか……、現場も大変だった。私以上だったと思いますね。だから自分がどうこうなんて、言えなかったです」 そのつらい時期を、21歳だった松下さんはどう乗り越えたのかと問うと、「役者冥利(みょうり)に尽きるっていう言葉でしたね」と穏やかに微笑んだ。
「それに、ドラマの撮影現場って、みなさんがイメージするより、けっこうハードなんですよね。想像を超える環境や状況っていうのが山ほどある。肉体的にこれは本当にきついっていうのもあれば、精神的に、気持ちがハードだっていうときもあるし、ダブルのときもあります。それを繰り返していくと、すごくしんどいって感じているはずなのに、あ、そうだったな、くらいになってくれる。自分でも感心しますけど、よくできてるんですよ(笑)。だから続けていられるし、芝居を好きでいられる。 そんないろいろな経験がいま、いい部分になっているなって。今回の舞台は、また笑いというかたちで、見せていけたらと思います」 ■年齢とともに自然に 「自然体」が魅力と評されることも多いが、「自分で意識したことはあまりない」と言う。 「年齢とともに、自然になっていた、っていうのはあるかもしれないですね。50代に入って、若いときの肩ひじ張ってたのとはちょっと違う感じになってきたのは、年齢が自然に、そうさせてくれたのかもしれません」 そんな50代を迎えるコツは? 「ストレスをためないように、美味しいものを食べて忘れるときもあるし、まわりの人と愚痴を言ったりしているうちに、徐々に体から抜けてくのかなって(笑)。やはり、話せる人がいるといいですよね。 あと最近は、50代になって、一人の時間を楽しもうって。一人で出かけたり、カフェ行ったり、何でも」 その変化には、新型コロナウイルスの蔓延も影響しているという。それまでは、「人と会って何かプラスで」と考えることが多かったが、「一人で外に出ていくなんていうこと、そういえばなかなかしてなかったなって思って。台本と向き合ってるだけだと、自分のなかで、想像力の限界が出てきてしまうので、そうやって一息つく時間を持つようになりました。