ウィーンでの世界初演、欧州ツアーを経て、ついに日本初演。岡田利規、『リビングルームのメタモルフォーシス』を語る
チェルフィッチュ × 藤倉大 with アンサンブル・ノマド『リビングルームのメタモルフォーシス』が、9月20日(金)、東京・東京芸術劇場シアターイーストで開幕する。ウィーン芸術週間の委嘱作で、2023年5月に同芸術祭にて世界初演、その後ヨーロッパツアーで上演された音楽劇の日本初演だ。国際的に活躍する演劇作家、演出家でチェルフィッチュ主宰の岡田利規と、ロンドンを拠点に活躍を続け、オペラや他ジャンルのアーティストとのコラボレーションも多く手がける作曲家、藤倉大との初のタッグ。日本初演に向けてのリハーサルを重ねる稽古場で合同取材に応じた岡田に、「音楽劇」への挑戦、作品に込めた思いを聞いた。 【全ての写真】国際的に活躍する演劇作家、演出家でチェルフィッチュ主宰の岡田利規
滑稽だけれど、皆にとって重要な問題
「人間中心の芸術形式である演劇で、人間中心的なものから逃げていくようなもの、逸脱し、超えていくようなものを作ってみたくなりました。そのような試みをすることは、意味のあることだと思うんです」と、本作のテーマについて述べた岡田。本作に登場するのは、ある家のリビングルームに集う住人たちだが、彼らは家の管理会社から理不尽な立ち退きの宣告を受け、次第に何かの気配、さらには不穏な闖入者の存在に怯えるようになる。 「とてもわかりやすい構成の作品です。前半では、登場人物たちが人間中心的な問題、つまり、この家は誰の家であるとか、権利があるとかないとか、そういう話題にかかずらう。滑稽ですよね。だってそもそも大地は地球のものであって、あなたのものではないでしょう。と言いつつ、それはわたしたちの多くにとって馴染みのある、切実な問題でもあります。けれども物語の中心は、だんだんそこから離れていく。そんなことはどうでも良くなって、全然次元の違う、スケールの違うことに呑み込まれていく。そういう内容です」 日本初演に向け、岡田はあらためて稽古の最初のステップである読み合わせの時間をたっぷりと設け、テキストに真正面から向き合う。変容していくリビングルームで、得体の知れない力に呑み込まれていく様を表現していく俳優たち。岡田はその台詞の抑揚、助詞の選び直しに至るまで、一字一句丁寧に、表現を見直していく。 「日本語がダイレクトに伝わる場での上演だから言葉の伝わりかたをブラッシュアップするモチベーションが自然と上がりますし、なにより、上演を重ねるということは作品を成熟させる機会でもあるので、とにかくそれをやっていきたいんです。舞台上で発せられる言葉がお客さんの中に入っていくことは、シンプルだけど、とても大事。それを、やりたいんです」 リアルで自然な口語と、一見ぎこちなくも見える身体の動きによる独特の表現で知られるチェルフィッチュの舞台。読み合わせの場では、俳優たちが岡田の導きに即座に反応。その度に、台詞の響きは説得力を増す。「発せられた言葉が観客の中に入ってくるようにする。そこには割と心を砕いています」と明かす岡田。稽古中の彼の言葉には、俳優への信頼感、リスペクトがたっぷりと込められる。