恒星「WOH G64」のクローズアップ撮影に成功 天の川銀河の外にある恒星では初の成果
大マゼラン雲の恒星「WOH G64」の周辺部の画像化に成功!
大仲氏らの研究チームは、ヨーロッパ南天天文台(ESO)がチリのパラナル天文台に設置した望遠鏡「VLT」の干渉計「GRAVITY」の観測データに基づき、WOH G64の周辺環境の画像化を試みました。VLTには従来、望遠鏡2台によって構成される「MIDI」という高性能な干渉計が存在しましたが、当時最高峰の干渉計であるMIDIをもってしても、WOH G64の画像化には成功していませんでした。そこでMIDIを置き換える形で、望遠鏡4台によって構成される新たな干渉計GRAVITYが2015年に稼働しました。 大仲氏らは、2020年12月15日と26日に、GRAVITYを通したWOH G64の赤外線観測を行いました。観測データを画像化するために、2種類の異なるアルゴリズムで処理したところ、WOH G64の周辺部の塵について、詳細な構造を画像化することに成功しました。WOH G64本体は今回の画像では識別できませんが、恒星の周辺環境をこれほどの解像度で画像化したのは、天の川銀河の外にある恒星では史上初めてのことです。
得られた画像から、WOH G64の周辺部に2つの構造物があることが分かります。中心部にある楕円形の構造は、WOH G64本体を繭のように包み込む塵の雲であると考えられます。塵の雲の大きさは短い側でも幅約216億km、長い側では幅約312億kmに達すると見られます。短い側でさえ、冥王星が太陽から最も遠い位置にある時の約3倍もの距離に達します。 今回の観測では副次的な成果として、WOH G64の明るさが10年前より暗くなっていることが分かりました。明るさの変化や塵の雲の形状の歪みは、大量の塵の放出で恒星本体の光が遮られ、形が非対称となった原因として十分に考えられます。WOH G64本体が塵の雲に遮られ暗くなることは、今回の観測でWOH G64本体が撮影できなかったことにもつながります。ただし、WOH G64本体の明るさ自体が予想より暗い場合や、未知の伴星による重力の影響など、明るさの変化や塵の雲の形状の説明は他にも考えられるため、理由の絞り込みには更なる観測が必要となります。