認知症JR事故の判決 「総合的な判断」とはどういうこと?
同様の事故が増えても変わらない?
このような判断で認知症患者の家族に賠償責任がないとなると、事故を起こされた鉄道会社が損害を自己負担することになります。 今後、このような事例が相次ぎ、鉄道会社の負担が増大しても、この「総合的な判断」の考え方は変わらないのでしょうか? 谷原弁護士は「家族の責任を認めるかどうかの話なので、鉄道会社の損害がいくら大きかろうと関係ありません」とし、判断の枠組みは変わらないとしています。ただし、事実認定の問題として、「公平の見地」の文言が判決文に入っていますので、考慮されることはあり得るようです。
“総合的な判断”で今後はどうなる?
今回の最高裁判決が出たことで、「総合的な判断」はほかの裁判でも踏襲されることになります。今後どのような影響があるのでしょうか? 谷原弁護士は「この判決では、認知症患者の事故防止に家族が積極的に関与すると『監督義務者に準ずべき者』とみなされ、損害賠償責任が家族に発生してしまうことになります。そこで、実際の介護だけに止めようする人が出てくるかもしれません」と、危惧しました。 認知症患者の家族としては、「どこまで自分たちで介護していくか」の決断を迫られるかもしれません。積極的に関与し、「監督義務者に準ずべき者」になるのであれば、「ここまでやれば徘徊することないだろう」というところまでやる必要がありそうです。「総合的な判断」においては、中途半端な介護がもっともリスクとなりかねないジレンマがありそうです。
------------------------------ ■重野真(しげの・まこと) 地方紙在籍中には支局/社会部に所属し、事件事故や学術文化などの報道に携わる。現在はフリーランスの記者として、雑誌・ウェブサイトで硬派記事を執筆するほか、ネットニュースの編集も手掛けている