中畑清

　10月24日に開催されるプロ野球ドラフト会議。今年で60回目を数える長い歴史の中では、指名や入団交渉などの舞台裏で、さまざまな人間ドラマが生まれている。その中から、“ちょっといい話”三題を選んで紹介する。【久保田龍雄/ライター】 【写真特集】プロ野球監督別リーグ優勝回数BEST10ランキング 　***

中畑の“直談判”の結果は――？　

　入団交渉の席で、指名漏れしたチームメイト2人も一緒に入団させてほしいという友情溢れる条件を出したのが、1975年、巨人に3位指名された中畑清（駒大）である。 　同年、中畑は二宮至、平田薫とともに“駒大トリオ”と並び称され、いずれも上位指名が予想されていた。 　ところが、いざふたを開けてみると、指名されたのは中畑だけ。しかも、巨人の上位2人は高校生だった。全日本の4番を打った実績からも、1位指名を確信していた中畑は、3位という評価に納得できず、一時は指名を蹴って社会人入りすることも考えた。 　だが、冷静になると、「3位でもいいじゃないか。プロに入ってから実力を示せばいいんだ」と気持ちを切り替え、巨人入りを決意した。 　その一方で、自分より大学通算打率が上だった平田や全日本の主将を務めた二宮が、どの球団からも指名されなかったことが気になった。2人が指名漏れしたのは、駒大トリオとして箔がついた分、契約金がかかり、実力的に釣り合わなくなることがネックになったとみられた。その証拠に、ドラフト直後、2人には社会人14社が獲得に名乗りを挙げ、就職先にはまったく困らないほどの人気ぶりだった。 　だが、2人がプロ志望であることに気づいていた中畑は、彼らに相談することなく、巨人・沢田幸夫スカウトに直談判した。 「いつも3人一緒に行動してきたし、同じような成績を残しています。だから、2人も巨人に行ったら絶対頑張ると思います。3人で一緒に入団したいんです」。 　ドラフト指名された選手が、入団条件としてチームメイト2人の入団を要請するのは、前代未聞の出来事だったが、その後、駒大・太田誠監督からも同じ要望が出され、晴れて3人一緒の入団が実現した。 　中畑は“絶好調男”として219試合巨人の4番を務めるなど、4度の優勝に貢献。平田は左キラーの代打として活躍し、二宮も77年に108試合出場するなど、貴重な守備要員としてチームに貢献した。