悪質な運転なのに危険運転致死傷罪にならない事態が多発…一般人の感覚との差は埋まるのか【「表と裏」の法律知識】
【「表と裏」の法律知識】#258 今年9月、埼玉県川口市で、18歳の少年が飲酒運転の末、一方通行の道路を時速100キロで逆走し死亡事故を起こしました。当初は危険運転致死の疑いで捜査されましたが、容疑がより軽い過失運転致死に変更され、多くの批判を呼びました。このように、悪質な運転手なのに、危険運転致死傷罪に問われないケースが少なくありません。 【写真】東名あおり運転事件の被告が「俺が出るまで待っとけよ」…法廷での発言は罪になるの? その原因ですが、今の法律では、危険運転致死傷罪を適用するには、「アルコールにより正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」または「制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」と認められる必要があります。しかし、呼気中のアルコール濃度や自動車の速度についての数値的な基準は法律上明記されておらず基準が曖昧なため、検察官が起訴することをちゅうちょし、一般感覚的には「危険」ではあっても、危険運転致死傷罪にならないという事態が多く起きているのです。これにより、つらい思いをされている被害者遺族も多くいらっしゃいます。 こうした被害者遺族の要望を受けて、法務省の検討委員会は、危険運転となる基準を明確にするための「数値基準」の導入を議論しています。 例えば、飲酒運転の場合、呼気中のアルコール濃度が一定の基準を超えたら「危険運転」とみなす、また「高速度」については、法定速度の1.5倍や2倍を超えた場合に「高速度」とするという案も挙げられています。この基準が設けられれば、警察や裁判での判断がよりスムーズになり、悪質な運転者を確実に罰することが期待できます。 ただし、数値基準を導入することには課題もあるのです。飲酒や高速度による運転への影響は、運転手の個人差や道路状況によって異なります。それを一律の基準にすると、基準値をわずかに下回る場合には危険運転致死傷罪の適用ができなくなります。そのため、法務省では、数値基準を基本にしながらも、状況に応じて柔軟に判断する仕組みが必要だとしています。 今回の見直しは、被害者や遺族の声に応え、法律をより公平かつ分かりやすくするための重要な取り組み。しっかり見守りたいと思います。 (髙橋裕樹/弁護士)