映像不可能といわれた傑作ミステリー『十角館の殺人』、ドラマを盛り上げる3つのポイントについて考察
全世界シリーズ累計670万部の綾辻行人によるベストセラー小説『十角館の殺人』が、実写映像化され、Huluで3月22日より独占配信された。本作は、十角形の奇妙な外観を持つ“十角館”を有する角島(つのじま)を舞台に、大学のミステリ研究会のメンバーたちが連続殺人に巻き込まれていく様を描いたミステリー。一方で角島から遠く離れた本土では、“死者からの手紙”が届く。その手紙をきっかけに、半年前に亡くなった天才建築家・中村青司(仲村トオル)の死の真相について調査し始めた江南(かわみなみ)孝明(奥 智哉)は、中村青司の実弟・中村紅次郎(角田晃広)宅を訪問。そこで紅次郎の大学の後輩・島田 潔(青木崇高)と出会い、共に謎を追い求めることになる。「映像化不可能」と言われていた本作の実写映像が完成し、ひと足さきに本作を観た筆者が、その面白さを3つのポイントに分けて紹介したい。 【写真】口をへの字にする青木崇高“島田潔”を横目で見る奥智哉“江南孝明” ■「事件パート・島」×「謎追いパート・本土」舞台は2つ! まず注目したいのは、同時進行で2つの物語が紡がれるところだ。ミス研のメンバーは、今は無人島と化している孤島・角島に合宿へと赴く。角島は、半年前に本館・青屋敷が焼け落ち、4人が謎の死を遂げたいわくつきの島であり、彼らはその離れ、十角形の奇妙な形をした“十角館”に滞在する。終始不穏な空気が漂う中、唐突に「第一の被害者」「第二の被害者」「第三の被害者」「第四の被害者」「最後の被害者」「探偵」「殺人犯人」と書かれた7枚の札がテーブル上に現れる。そして翌日、ミス研のメンバーひとりが何者かに殺害されるのだった。 疑心暗鬼に陥り、互いに仲間を疑い始める彼らだが、孤島である角島から出られるのは1週間後。島に到着した当初は、謎が残る角島事件を楽しんでいたミス研のメンバーたちが、気付けば連続殺人に巻き込まれているのだから、皮肉なことだ。 一方、謎追いパートである本土では、時を同じくして、元ミス研メンバーの江南のもとに、死んだはずの中村青司から1通の手紙が届く。“死者からの手紙”の真相を調べようと動き出す江南と島田。中村青司について知るために、関係各所に押し掛けていた。「中村青司は実は生きているのでは?」などのさまざまな仮説を立て、それを実証しようと奔走する。だが、今まさに角島で連続殺人が起きていることは知る由もない。 この殺人事件が今まさに起き、恐怖と混乱に見舞われている角島パートのシリアスさと、知的好奇心に任せて“死者からの手紙”の真相を追いかける本土パートのゆるっとした対照が視聴者を飽きさせない。 ちなみに、江南(通称:コナン)と島田の2人のバディに、過去と今の2つの時間軸、島と本土の2つの舞台、中村兄弟の2人…と、何かと“2”種類登場するのが、本作の面白さを引き立てる一つの要因になっているように思う。 ■1986年という時代と時間がキーに!! 時代設定は1986年、つまり昭和61年になる。令和の今、あるものがなく、ないものがあるのもまた本作の重要なポイントになっている。と、同時に見応えの1つになっている印象だ。 当たり前だが、携帯電話は存在しない。そのため、各家(部屋)にレトロな固定電話が置いてある。つまり連絡手段は、基本は固定(公衆)電話か手紙の2択。雑誌や小説の娯楽が人気を博し、第2次麻雀ブームでほとんどの大学生が麻雀を嗜んでいた。 そんな今とは違う時代設定だからこそ、単純に美術や洋服等の視覚でも本作を楽しむことができる。さらに、この時代設定だからこそ、成立するミステリーでもあるのだ。 ■ミステリ研究会だからこその推理に注目!! 本作に登場する大半がミステリ研究会のメンバーである。ゆえに、島パートでは離島での連続殺人に阿鼻叫喚するただの学生たちという設定とは違い、当事者たちが恐怖の最中どこかでこの事件を楽しんでいる様も見られた。各々が犯人を推理し、自分ならではの真相もとい仮説を口にする。ミス研のメンバーたちは、被害者であると同時に「探偵」の役割も担っているのだ。そして、無駄に説得力を出してしまう。それは本土の江南と島田もまた然り。 そしてミステリー作品の醍醐味と言えば、我々受け手(視聴者)が映像や文章を基にその事件を共に推理していくことではないだろうか。大抵のミステリー作品では謎解きの視点はただ1つ。その1つの視点を基に、我々は推理していく。だが本作は、この謎解きの視点が複数存在してくる。つまり、その分我々視聴者は惑わされ、混乱し、さまざまなルートを歩んでいた気でいるが、実は無意識のうちに敷かれたレールの上をただ歩かされてしまう。さて、あなたはこの先入観と言う名のレールから外れて、フラットかつ広い視点からこの事件を解明することができるだろうか。 映像化不可と言われていただけあり、新感覚のミステリードラマ。ぜひ、このゾクゾクした面白さを体験しながら、共に「謎解き」役を担ってほしい。 文=戸塚安友奈