齊藤 工×栗林和明 日本発巨大IPを狙え! グローバルヒットへの挑戦
「世界観」を最も重視して脚本を制作
『KILLTUBE』はこの世界観IPを目指し「日本固有の文化(江戸時代)×世界中の誰もが親しんでいる文化(動画配信)」をかけ合わせた世界観をつくった。また、栗林は劇場での没入体験が生み出す“熱”の重要性を感じていたことから「映画」を選び、デフォルメされたキャラクターの拡張ポテンシャルを信じて実写ではなく「アニメ」を選択した。日本のアニメ長編映画は、人気マンガやゲームを原作とした作品が多いなか、『KILLTUBE』は脚本からオリジナルで製作している。日本のマンガは魅力的なキャラクターを中心にメディアミックスをしていくことが多いが、本作では前述の通り「世界観」を最も重視して脚本を制作している。 「世界観をつくるということは、いわば『ゼロから未知の新しい世界をつくる』という作業です。ハリー・ポッターの原作者であるJ・K・ローリングさんは、それを独自でつくり上げたという意味で本当にすごいですが、僕の場合、ひとりでは到底かなわない。それに劇場アニメの製作に関しては初心者なので、多様な領域のプロの才能や知恵を借りて実験をしながらつくろうと考えました」(栗林) 脚本制作では、ひとりの脚本家にすべてを任せるのではなく、チームでひとつの脚本を仕上げる実験を行った。ハリウッド式の「ライターズルーム」を踏襲しつつ、独自にアレンジ。脚本の構成を「型」として先に決めておき、細かい部分をチームでつくっていくことで、属人的になりがちな脚本づくりがオープンになった。実際に広告プランナー、アーティスト、演出家などが越境してアイデアを詰め込んだ。時間や議論の手間はかかるが、ストーリーの可能性は最大限に広がった。 24年4月にYouTubeで公開したパイロット映像は米国からの視聴者数が日本を上回り、海外向けリリースは約20媒体で取り上げられた。グローバルヒットへとつながる確かな手応えを感じている。 ■映画の新しい「届け方」と「稼ぎ方」 「日々映画の製作現場で、日本の映画産業が限界を迎えつつあることを感じています。栗林さんが今進まれている道にはとても期待していて、僕が十何年見てきたものの先にある、ひとつの答えなんじゃないかと思っています」(齊藤) 齊藤は今回のカンヌ国際映画祭で、日本の映画と文化の発信と海外の映画関係者との交流を目的としたパーティ「JAPAN NIGHT」に参加。自身がハリウッドで企画・プロデュースするインディーズ映画『When I was a human』を英語でプレゼンした。また、映画祭会場に併設されている各国の映画関係者が集まる「マルシェ・ドゥ・フィルム」では、海外のバイヤーや企業に向けて、自身が手がける作品の営業活動を行った。