シーズン終盤に向け、セルジオ越後「Jリーグでは珍しい、優勝をするための補強をした町田に注目したい」
今年の大相撲の春場所では、まだ大銀杏の結えない新入幕の尊富士が優勝したけど、J1初挑戦の町田がいきなり優勝したらそれに近いものがある。話題性は抜群だね。 今夏のJリーグの移籍市場は、例年以上に選手の出入りが激しかった。 中でも目についたのが首位の町田だ。パリ五輪代表のMF平河が海外移籍したものの、日本代表経験のあるMF相馬、DF杉岡、DF中山といった実力者を次々と獲得した。中山はデビュー戦でゴールを決めて勝利に貢献するなど早速存在感を見せている。 これまでJリーグでシーズン途中に大型補強をするチームというのは、思うように結果を出せておらず、J2降格がちらついてきたチームが大半。つまり、"落ちないための補強"だ。今季も最下位の札幌は外国人を含めて7人もの新戦力を獲得している。 でも、優勝するための補強は珍しい。このチャンスを逃したくないという町田の意気込みが伝わってくる。主力の平河が抜けたら、すぐに相馬を獲得。スピード感があって、代わりに連れてくる選手も的確。現場とフロントの意思疎通がうまくいっているのだろう。いいお金の使い方をしている。 もちろん、親会社(サイバーエージェント)の資金があってこその補強だけど、こういう積極的な姿勢は歓迎すべきだ。 個人的には、勝つためにお金を使ったチームが結果を出すことで、Jリーグにいい循環が生まれると思っている。そして、ここ数年その役割を果たしてくれていた神戸が、昨季の初優勝で満足してしまったのか今季はおとなしくなっているので、町田の今後には期待したいね。 ただ、このまま首位をキープして優勝できるかどうかはまだ何とも言えない。簡単ではないと思う。何しろ町田は今季J1に初めて昇格したチームだ。首位にいるとはいえ、圧倒的な強さを見せているわけではなく、下位チームに取りこぼすこともある。 ここにきての大型補強も、裏を返せば選手層に不安があったということ。広島、鹿島、G大阪、神戸といったライバルも万全ではないものの、優勝争いは最後の最後までもつれるんじゃないかな。 今季の町田は外国人も含めて特定の選手に依存しないサッカーをやっている。皆がハードワークしている。青森山田高校を率いていた黒田監督らしいサッカーだよね。 ただ、このまま優勝したら誰がMVPに選ばれるのだろう。正直、ここまで一番目立っているのは監督で、チームの顔がわかりにくいというか、ひとりを選ぶのが難しい。 その意味では五輪代表のFW藤尾に期待したい。強気な性格はFW向きだし、彼がここからたくさん点を取って、A代表に選ばれるくらいの活躍を見せられるか。 また、ここからは仮の話になるけど、もし優勝できたら、来季はさらなる投資が必要になる。選手の年俸を上げなければならないし、AFCチャンピオンズリーグに向けての補強も必要になり、それこそ藤尾など海外移籍する選手もいるかもしれない。また、アクセスの悪いスタジアムなど解決すべきハードの問題もある。 そうした中で勢いを維持できるかどうか。親会社の熱が冷めてしまわないか。1年だけじゃなく、長くJリーグを盛り上げてくれるチームになってくれるといい。 構成/渡辺達也