国・地方で相次ぐ不祥事…「議員」を“辞めさせる”にはどうすればいい? “元議員”の弁護士に聞いてみた
地方議員を「辞めさせる」方法
地方議員の場合、国会議員と異なり、議員に対するリコールの制度がおかれている。所定の署名数を集めて住民投票(解職投票)を要求し、その解職投票で過半数の同意があれば、議員は失職する(地方自治法80条、83条)。 解職投票の実施に必要な署名数は、自治体の有権者の総数に応じて以下のように決まっている(地方自治法80条1項)。 【自治体の有権者数ごとの署名数要件(有権者総数=Xとする)】 ①X=40万人以下:X×3分の1 ②X=40万人超~80万人以下:40万人×3分の1+(X-40万人)×6分の1 ③X=80万人超:40万人×3分の1+40万人×6分の1+(X-80万人)×8分の1 つまり、有権者総数30万人の場合は10万筆以上、有権者総数100万人の場合は22万5000筆以上の署名があれば、解職投票に持ち込むことができる。 このように、要件は厳しいながらも、地方自治においては国政と異なり、住民の手で直接議員を辞めさせる強力な権限が認められている。なぜか。 三葛弁護士:「地方自治は、住民の身近な課題については自分たちで解決するというしくみです。したがって、憲法上、直接民主制的な制度が採用されており、リコール制度もその一環です。 これに対し、国政は国全体に関する課題を解決するものなので、直接民主制的な制度はなじまないのです。 ただし、議会の多数派が反対派・少数派を追い落とすのにリコールの制度が悪用されるのを防ぐ必要があります。そのために署名数の要件が厳しくなっているのです」 また、地方自治法には議会による懲罰の制度もおかれている。地方自治法、会議規則、委員会に関する条例に違反した場合に懲罰を科することができ、「除名」には3分の2以上の出席の下、4分の3以上の同意が必要とされている(地方自治法135条1項4号・3項)。 有権者にとっては、リコールのハードルが高いとしても、議員や議会内の会派等にはたらきかけ、懲罰権の発動を求めることが考えられる。 ただし、三葛弁護士によると、実際の運用として、地方議会においては、議員を辞めさせることにきわめて慎重であるという。 三葛弁護士:「その理由は3つ挙げられます。第一に、自分もやられかねないという緊張感があります。 第二に、議員は曲がりなりにも住民による直接選挙により選出されています。除名の議決をすることにより、民主主義の結果を否定することになりかねません。 第三に、除名された議員が除名処分の法的な有効性を争って裁判に訴える可能性があります。最高裁の判例によれば、地方議員に対する懲罰のなかでも、出席停止処分や除名処分については裁判所による司法審査の対象となります(最高裁令和2年(2020年)11月25日判決参照)。 したがって、実際には、懲罰として除名処分を下すのではなく、『辞職勧告決議』といった強制力を伴わないかたちにとどめることが多くなっています。 『このままだとクビになるから自分から辞めましょう』と促すもので、民間企業で『懲戒解雇』をちらつかせながら自主的に退職届を提出するよう求める『諭旨退職』と似ています。 トラブルを未然に防止するためのものであります」 不祥事を起こした議員が多数会派に所属している場合、辞職勧告決議を行うような自浄作用は働きにくいのではないか。 三葛弁護士:「議員本人が不祥事を認めている場合と、認めていない場合とで異なります。また、同僚議員からみても『これはまずい』と思うか、『これは守ってやるべきだ』と思うかという評価軸もあります。 いくら多数派であっても、不祥事を起こしたことが明白で、その程度が重大であれば、離党や会派離脱を勧告したり、自発的な議員辞職を促したりするでしょう」
結局、最重要なのは「選挙を通じたコントロール」
現状では、国会議員を有権者が直接辞めさせる法的手段はない。また、地方議員についてはリコールの制度はあるものの、実際にはハードルが高くなっている。いずれも多数派による反対派・少数派の抑圧を防ぐという考慮に基づくものであり、それはやむを得ないことといえる。 しかし、国でも地方でも、議員や政党にとっては、大多数の有権者を敵に回すことは自分の地位を失うことにつながる。最も重要なのは、我々有権者が選挙を通じての民主的コントロールを実効的に及ぼすことにより、議員・政党に自浄作用を持たせることであるといえよう。
弁護士JP編集部