麻原崇拝は今も存在? 国の遺骨引き渡し拒否に森達也氏「不安や恐怖あおるだけ」 オウム真理教が残した影響は
オウム暴走の要因には、「集団心理のメカニズム」と「宗教が抱え込むリスク」があるという。「集団の中で互いに忖度しあい、大きな間違いを犯してしまう。これはオウムだけでなく普遍的なことだ。もう1つは、宗教の負のメカニズムとして、生と死の価値観を転換してしまうこと。本気で『この人を殺して、良い世界へ転生させてあげる』と思っていた幹部もいる。これらが悪いほうに重なってしまった」。
■オウム真理教めぐる「メディア」の責任は
作家でジャーナリストの佐々木俊尚氏は「メディアの影響が大きい」と指摘する。「1990年代はオカルトブーム。冷戦後の新しい物語として、荒唐無稽なオカルトが受容される土壌があった。そこを後押ししたのはメディアだが、オウム研究ではマスコミの影響が語られていない。研究発表はマスコミ上で行われるので、自分自身のことは研究しない」。 事件直前まで、マスコミは「オウムを引っ張りだこ」にしていたと振り返る。「バラエティ番組にバンバン出て、ある種の人気者だった中、衆議院選挙で全員落選する。世間からの注目との落差がひずみとなって、事件につながったとの分析もある。マスコミが持ち上げて、転落したらたたく、ありがちな構図にはめられた部分はあるのでは」。加えて、「地下鉄サリン事件の2日後に、警視庁は強制捜査に入る予定だった。それを知っていたのは、警視庁幹部と記者クラブの一部記者のみ。事前にオウムが知っていたのは、マスコミ経由で漏れたからではないか」とも推測する。
森氏は「当時のメディアは、“凶暴・凶悪で冷酷な殺人集団”か、“洗脳されて理性や感情を失った危険な集団”、どちらかのレトリックでオウムを伝えていた」と語る。一方で「取材で通算3年ほど施設にいて、一人ひとりの信者は善良で純粋」との感想を抱いたそうだ。「なぜ彼らが凶悪事件を起こしたのかを考えず、社会はそれを拒否した。危険な存在がいると安心できない。わからないままの不安と恐怖が続き、“危険な異物”を排除したい気持ちが高まった。この影響は現在進行形で続いている」。