埴輪と土偶がこの秋熱い 各地で展覧会続々 現代人を魅了する造形美
埴輪(はにわ)や土偶をテーマにした展覧会がこの秋、全国各地で開催されている。展覧会が多い理由は、埴輪と土偶がいずれも日本列島の広範囲で出土していることもあるが、独自の造形美が時代を超えて現代人を魅了しているからだ。古代ファンに向け、充実のラインアップからお薦めの催しを紹介する。 【写真特集】現代人を魅了する埴輪の造形美 東京国立博物館(東博、東京都台東区)では特別展「はにわ」が開催中で、国宝18点を含む約120件の埴輪や古墳の副葬品などの逸品が並ぶ。 ◇カラフルだった埴輪も 埴輪とは3~6世紀ごろに有力者の墓である古墳の上などに並べられた土製品のことで、人物や動物だけでなく武器や椅子、建物をかたどったものもあり、当時の人々の暮らしや思想を現代に伝える。 特別展の目玉は、50年前に国宝に指定された「埴輪 挂甲(けいこう)の武人」。挂甲とは、金属や革の板「小札(こざね)」をひもでとじて作ったよろいのこと。東博の調査で白と赤、灰の3色の顔料が塗られていたことが判明し、彩色を施した復元品も鑑賞できる。開幕直後の平日、展示室の外にあるグッズの販売コーナーでは、埴輪をデザインしたトートバッグやキーホルダー、クリアファイルに水筒、お菓子などを買い物かごに詰めた人々がレジに列を作っていた。東博での特別展は12月8日まで。2025年1月21日からは九州国立博物館(福岡県太宰府市)に会場を移す。 明治大学博物館(千代田区)で開催中の「明大コレクション59 さまざまな人物はにわ」(12月14日まで)は、埴輪10点が並ぶ小規模なものだが、東博の特別展にも展示されていない人物埴輪が鑑賞できる。 茨城県小美玉市の玉里舟塚古墳で見つかった貴人とみられる人物埴輪は、足のももの部分などに紺色の顔料でズボンの柄を表現している。埴輪に紺色の顔料を使うことは珍しく、カラフルに塗り分けた東博の「埴輪 挂甲の武人」にも紺色は使われていない。展示を担当した忽那敬三学芸員は「東博の展示と合わせて鑑賞してもらい、人物埴輪の多様な姿を楽しんでもらいたい」とアピールする。 千葉県内の市町村で、最多の約1500基の古墳が確認されている市原市の市原歴史博物館では「旅するはにわ展」が12月15日まで開かれている。展覧会のタイトルは、市内の「山倉1号墳」で出土した埴輪が、約80キロ離れた埼玉県鴻巣市の「生出塚(おいねづか)埴輪窯跡」で製作され、運ばれたことに由来する。 この窯で作られた埴輪は埼玉県以外に東京都、神奈川県、千葉県の古墳からも出土しており、山倉1号墳は最も遠い場所にある。展示では、生出塚窯跡で作られた各地の埴輪が並び、造形や細かい加工の類似性を確かめることができる。鷹野光行館長は「埴輪を通じて、当時の広範な地域間交流を感じてもらいたい」と話す。 ◇美的価値を「発見」した岡本太郎 縄文時代に作られた土製の人形である土偶の展覧会も目白押しだ。土偶は北海道から九州まで約2万点出土しており、多くは女性をかたどったものだが、時期や地域で姿は多様だ。 祈るように手を合わせた国宝「合掌土偶」を所蔵する青森県の八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館では、国宝指定15周年を記念した企画展「合掌土偶ができたころ」が24日まで開催されている。また、宮崎県立西都原(さいとばる)考古博物館では「『土偶の美』と『縄文の美』~東北日本と九州~」が12月8日まで開かれている。展示では、火山の多い九州で入手しやすく加工が容易な軽石で作った岩偶(がんぐう)も紹介されている。 埴輪と土偶が現代人の心をとらえる理由は何か。その謎の手がかりとなる「ハニワと土偶の近代」展が、東京国立近代美術館(千代田区)で12月22日まで開催されている。 近代以降、埴輪や土偶は造形美だけでなく、当時の生活スタイルや思想が注目されるようになり、絵画や工芸、文学、映画、テレビ番組などにも取り入れられていった。今回の企画展で実物の埴輪は2点のみで、土偶の展示はないが、美的な価値を「発見」した岡本太郎やイサム・ノグチの作品などを通じて、今日に続くブームの背景を探ることができる。【高島博之】