豪雨被災地の今を見つめる旅に密着 映画『囁きの河』ロケツーリズムとは【熊本】
テレビ熊本
2020年7月豪雨の被災地、人吉・球磨地方を舞台にした映画『囁きの河』。そのロケ地をめぐるツアーが先日、開催されました。映画を通して〈被災地の今〉を見つめる旅に密着しました。 中原 丈雄さん主演の映画『囁きの河』。2020年7月豪雨の被災地、人吉・球磨地方が舞台です。宮崎 美子さんや清水 美砂さん、渡辺 裕太さんなど豪華俳優陣が出演します。 22年ぶりに再会した中原さん演じる父と渡辺さん演じる息子が球磨川下りの復活を目指す物語で、ことし2月から撮影が行われました。 この映画でエグゼクティブプロデューサーを務める青木 辰司さんです。今回、ある取り組みを企画しました。 【青木 辰司さん】 「この映画の一つの重要なポイントは、フィクションでありながら、人吉の豪雨災害という事実を踏まえたフィクションであるということ。『ロケツーリズム』と名付けて、ぜひ人吉の魅力とともに課題を肌で感じられるツアーに行きませんかと」 『囁きの河』の撮影地を巡るロケツーリズムです。 青木さんは東京・世田谷区で60歳以上を対象にした生涯学習大学の講師を務めていて、その受講生9人と豪雨の被災地を訪れました。 まずは山江村の内山 慶治 村長が出迎えました。 【内山 慶治 山江村長】 「7月4日に洪水が起きたが、全然、携帯電話が通じないということで、行くしか安否を確認できない。道路の上に川が来ている、こういう所を歩いていかないと安否確認できない状態だった。職員が二次被害に遭いそうな所で、写真を見てゾッとした」 4年前、この場所がどのような状況で、そして、どのようにして復興への歩みを進めてきたのか。村長の言葉で、参加者たちに伝えます。 場所を移動し、次は映画ロケの見学です。 【俳優 中原丈雄さん】 「遊水地になるか分からない土地で暮らしていくというシーンの一つ。ここに住んでいる人もいるし、土地を手放さないといけない人もいる中で、地区と行政とのいろんな中で、一人一人、一軒一軒の考えも違うし、大変なことだと思う」 中原さん演じる主人公が災害後の故郷と向き合う姿を参加者たちは目に焼き付けました。 【参加者】 「表情が、やはりさすがベテラン」 「ここを遊水地にするという設定だが、遊水地にする時には、あそこ(土地)を持っている人たちは、どうなるんだろうと」 その土地に生きる人が抱える葛藤や苦しみ。映 画のワンシーンを通して、参加者たちは人吉豪雨が残した爪痕を考えました。 この日の最後は、防災食の体験です。 【ひまわり亭 本田 節 代表】 「一切、まな板を使わない。衛生上の問題、それからまな板を(使った場合は)洗わなければいけないが、(災害時には)水がない」 豪雨で自らも被災した本田 節さんから災害時に貴重な水を有効活用できるように、洗い物を出さないパスタや、耐熱のポリ袋でごはんを炊く方法などを学びました。 【ひまわり亭 本田 節 代表】 「〈被災しても自分たちが自立できる食〉をテーマで防災食を伝え続けてきた。皆さん(災害を)他人事だと思わず、自分事として捉える。ただの防災食ではないということ。自分の命、家族の命は自分たちで守る」 そして、2日目。参加者たちは青井阿蘇神社を訪れました。 【参加者】 「恐ろしいね、ちょっと想像できない」 「このようなのがアッという間に来るわけだから」 「川なのにね、海だったら、まだ。川でこれだもんね」 映画のロケ地でもある人吉旅館では、女将の経験に耳を傾けます。 【人吉旅館 女将 堀尾 里美さん】 「うす暗い中、川を眺めたら(橋の)約1メートル下(まで水が来ていた)だからあまり(余裕が)なかった。しかし、私的にはこれくらいの水(量)は毎年あった。これからそれ以上(水位が)上がらなければ大丈夫と思った。(しかし水が)減った形跡がなかった。(水位が)上がるような気がした。だから〈今回はちょっと危ないな〉って。とにかく危機一髪ではあった」 東京から遠く離れたこの人吉の地で、わずか数年前に起きた出来事。 実際に訪れたことで参加者たちは災害、そして防災に対する意識を高めました。 【参加者】 「こんな高い所まで(水が)来るの、とか今は(被災地が)きれいになっていることに驚き、やはり現地に来ないと、写真を見ただけではきっと思えなかった。すごいんだな、大変だったんだなと」 「どう考えてもこの静かな風景を見て、すぐそばに川はあるが、あんなことになるとは誰も想像できない。今までも結構(防災準備を)やっていたつもりだったが、これからもっと頑張って準備しないと、と思った」 「事前準備、できることはしないと」 【青木辰司さん】 「(参加者たちは)この水害がどんなに大きなことだったかを感じて帰るのではないか。そのことを仲間や近所に伝えてもらって人吉の現実を多くの人に共有してもらいたい」 そして、青木さんは「映画『囁きの河』を通して、より多くの人に2020年7月豪雨について考えてもらいたい」と話します。 【青木辰司さん】 「文化・地形・産業と球磨川は一体となっている。一方で、大雨が降ると、水害から免れないという現実。これを地元の人たちが川と向き合いながら乗り越えようとしているのは、世界各国で参考になる。まさにこの映画は球磨川のこと、他人事の話だと捉えるのではなくて、自分事にするきっかけになる、そういうものになってほしい」 映画『囁きの河』は全国の映画館で来年、公開予定です。
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