新型レンジローバー・スポーツはイギリス流の高級SUVだった! ベンツやレクサスとは異なる“アンダーステイトメント”な魅力とは……
夢のクルマ
パワーユニットはマイルド・ハイブリッド(MHEV)を組み合わせた3.0リッター直6のガソリンとディーゼル、それにPHEVの3種類があって、試乗車はMHEVのディーゼルで、この直6ディーゼルが素晴らしい! 排気量2993ccの本体にターボ過給することで、最高出力300ps/4000rpmと最大トルク650Nm/1500~2500rpmを発揮。発進・加速時には48V規格の電気モーターが13kW(18ps)/5000rpmと42Nm/2000rpmでもってエンジンをアシストする。 モーターの助っ人ぶりがはっきりわかるのはゼロ発進時で、ギヤのセレクターをDレインジに入れてアクセルをゆっくり軽く踏み込むと、音もなく動き出す。徐(しず)かなること林の如く。風林火山の一節を書きたくなるほど、静かに。 走り出して印象的なのは、第1に容量の大きな2チャンバーのエアサスペンションがもたらすストローク量の大きそうな、だけど、タイヤのあたりとホイールの存在をとりわけ低速では感じる乗り心地である。ゴツゴツ揺れるけど、ガッツンという衝撃とは無縁の、オフロードでも快適そうな乗車フィールである。第2に、ディーゼルとは思えないほど静かなことだ。もちろん筆者も最近のディーゼルがガラガラ音とも振動とも無縁なことは知っている。だけど、これほど静かだとは、ちょっとビックリした。 第1については、オプションの23インチ仕様だから、ということもあるだろう。タイヤサイズは前後とも285/40という極太低扁平のピレリ「スコーピオン・ゼロ」。これはSUV用高性能タイヤである。おそらくこのタイヤのトレッドが硬い。いや、オールウェザーだから深いサイプが刻んであるはずで、そうするとタイヤというよりは23インチという大径ゆえの重さに起因しているのか? 車重2480kg(車検証)のスーパーヘビー級で、上屋もさぞ重いだろうけれど、ホイールにも上屋を揺らす質量があると考えられる。いずれにせよ、凸凹路面でタイヤとホイールがよく動く。これを大容量のエアサスペンションが懐深く受け止め、ガツンというショックを乗員に伝えない。たとえ岩場でも空気のバネで快適な乗り心地を実現していそうな、そういう感じ。堅牢なボディも貢献しているはずだ。MLA-Flexの採用で、ボディのねじり剛性は先代比35%高くなっているという。 静粛性については、オプションのMERIDIANシグネチャーサウンドシステムの働きが大きいと思われる。このシステムは、ノイズキャンセリングサウンドも含んでいる。シートのヘッドレストに仕込まれたスピーカーが音を打ち消す音を発することで、人工的に静寂をつくり出している。ただただ静か、というわけではない。直6ディーゼルは極めてスムーズに回り、2000rpmを超えると、ガソリンV8のようなドロロロロッというスポーティなサウンドを控えめに発する。このサウンドも、音響システムが人工的に強調している。音の領域でもデジタル・テクノロジーは大いに進歩している。 レンジローバー・スポーツはレンジローバーとほぼおなじくらいの技術内容を備えつつ、レンジローバーよりグッとスポーティで、レンジローバーよりグッとお求めやすい。試乗車の車両価格が1533万円と知ったとき、安い! と、思っちゃったほどである。 筆者にとっては夢のクルマだが。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)