ハワイ渡航直前に「有休ダメ」 社長命令で“娘の結婚式”を欠席…社員が「慰謝料」求めるも“敗訴”したワケ
ジャッジ
Xさんの敗訴です。 裁判所 「今回の会社の対応はOK」 「時季変更権の行使に問題なし」 「事業の正常な運営を妨げるからです」 以下の条文です。 ■ 労働基準法 39条5項 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。 有休って基本的に自由に取得できるのですが、制限があるんです。事業の正常な運営を妨げる場合には、会社は時季の変更を命令できます。 裁判所が「事業の正常な運営を妨げる」と判断した理由は以下のとおりです。 ・新型コロナウイルスが世界的に急拡大していた ・人生における重要なイベントでも自粛すべきだという状況にあった ・ホテルの従業員がコロナ感染した場合は、ホテルの責務として感染の事実、従業員の属性、海外旅行歴等を公表しなければならなかった ・3月11日にはWHOがパンデミックを表明した(その後の3月17日に時季変更権の行使) ・3月17日、ハワイ州知事が「ハワイへの渡航を控えること」「10名以上のイベントを自粛すること」を要請した ・このような状況下でハワイに渡航すればコロナに感染する危険があった ・もし感染した場合、ホテルの宿泊部の部長が上記状況下であえてハワイに渡航した事実が報道され、たとえ娘の結婚式に出席するためであったとしても、会社の社会的評価の低下をもたらしていた ・2~3月の会社の経営状況が危機的であった というわけでXさんは敗訴しました。ツライですね...。
マメ知識
有給休暇のマメ知識をお届けします。 有休の使い方はあなたの自由です。「有休取らせてくれねー」あるあるは以下のとおり。 ▼ あるある vol.1 上司 「有休取って何するんだ?」 林弁護士 「テメェに関係ねーだろ!」 「モルディブに行くんだよ!」 これでOKです。有休を取る理由など言わなくていいんです。最高裁がそう言ってるからです。 年次有給休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由(全林野白石営林署事件:最高裁 S48.3.2) ホントに上記回答をする人はいないと思いますが【理由を説明しなくてもいい】ことを押さえておくと、交渉上有利な立場になるので頭に入れておいてください。 ▼ あるある vol.2 部長 「有休取りたい? どうしよっかなぁ~」 「キミの頑張りを見てから決めるよ」 林弁護士 「部長、冗談は顔だけにしてくださいね」 これでOKです。有休って、労働基準法39条の条件を満たしていれば「有休取りますね」でOKです。会社の承諾なんか、いりません。さっきの最高裁が言ってるからです。 会社の承認の観念を容れる余地はない(by 最高裁) ここまで部長にケンカを売る人もいないと思いますが、部長のザレゴトは無視で有休を取れます。取らせてくれない時は労働局へ申し入れましょう。 ▼ 時期を変更してくれないかな... 今回の事件はコレでした。基本、あなたが取りたい時に取れる有給休暇なのですが、会社が「その時期はちょっと...」と考えた時には「その日は無理だからこういう時期にしてくれないかな?」とお願いしてくることがあります。時季変更権といいます。 今回の事件ではコロナ感染拡大という特殊な事情があったため裁判所は時季変更という判断をしましたが、時季変更が認められるケースは少ないです。 もし会社から「その日は無理!」と言われたら、こう切り返してみましょう。 あなた 「私が有休を取ることで【事業の正常な運営を妨げる】のでしょうか? その日の私の労働が業務の運営にとって不可欠であり、かつ、代替要員を確保するのが困難であることについて詳細な説明をお願いします」 会社は「ウッッゼ!」と思うでしょうが、有休を取りたければ実践してみてください。 今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!
林 孝匡(弁護士)