GPファイナルでV3を狙う羽生に死角はあるか?
奇跡の演技。いや羽生いわく「血のにじむ練習をしたきた」スケーターにとっては、それは必然の演技だったのかもしれない。先のGPシリーズNHK杯で世界最高得点「322.40」を叩き出し優勝した羽生結弦(20歳、ANA)が、11日からバルセロナで始まるGPファイナルで史上初の3連覇に挑む。過去にエフゲニー・プルシェンコもパトリック・チャンも成し遂げられなかった偉業だ。 GPシリーズの総合獲得得点の上位6人だけが出場できるGPファイナル。羽生の前には、日本からジュニアGPファイナルを制した17歳の宇野昌磨と、村上大介、そこにGPシリーズで今季2勝と絶好調のハビエル・フェルナンデス(スペイン)、復帰してきたパトリック・チャン(カナダ)、高さと成功率が、ズバ抜けている4回転で一躍名を馳せた金博洋(中国)の3人が立ち塞がる。 元全日本4位でインストラクターとしても活躍されている今川知子さんも、「NHK杯のプログラムは、現時点では最高といえる難易度の高いものです。ノーミスで滑れば誰も勝てないでしょう」と言う。この意見に異論のある人は誰もいないだろう。 ショートでは4回転ジャンプを二つ組み入れて100点超えを果たし。フリーでも冒頭から4回転サルコウ、4回転トゥループを続けて決め、後半に入れた4回転トゥループ+3回転トゥループのコンビネーションジャンプも成功させた。3度の4回転ジャンプという高難度な演技構成をノーミスでまとめたのである。 だが、死角がないわけではない。 ひとつは、死角がないのが死角という高レベルでの“内なる闘い”である。 本人も、NHK杯後に、「こういう数字を出してしまって、次は、これ以上求めなければなないと考えると……」という戸惑いを口にした。つまり目標、モチベーションの持ち方の問題である。カナダ杯では、パトリック・チャンに優勝をさらわれて「なにくそ」の気持ちを作り、今回はフリーで4回転を2つ入れてくる中国の18歳のホープ、金博洋の高難度プログラムに刺激を受けて、技術点でも負けないため、急遽、プログラムを高難度なものに組み替えた。好敵手を常に意識しながら、本来の負けず嫌いの性格に火をつけて、向上心につなげていくのが羽生の勝利の方程式である。 挑戦者の立場で勝負に挑む羽生にとって、奇跡の点数を弾きだした後の大会で、「勝って当たり前」と、周囲に見られることは、プレッシャーに変わり、挑戦者のモチベーションを保つことが難しくなる。そういう心理状況は、ミスを生み出すことにつながりかねない。王者ゆえの苦悩。つまり死角がないことが死角なのである。