川崎フロンターレのJ連覇の秘密
稀有な光景がヤンマースタジアム長居のピッチに生まれた。川崎フロンターレの選手やスタッフたちが歓喜の輪を作っている。そして、王者の歓声をかき消すように、1-1で迎えた後半終了間際に劇的な決勝ゴールを決めた、セレッソ大阪のMF山村和也のヒーローインタビューが響きわたってくる。 フロンターレが勝てば、史上5チーム目となるJ1連覇が決まった10日の明治安田生命J1リーグ第32節。昨シーズンのYBCルヴァンカップ決勝でも屈した、天敵セレッソに返り討ちにあいながらも、同時間帯で戦っていた2位のサンフレッチェ広島も敗れたという一報が飛び込んできた。 負けたチームの優勝が決まるのは、1ステージ制に限れば1996シーズンの鹿島アントラーズ以来、22年ぶり2例目となる。最終節にもつれ込んだ前回はアントラーズがヴェルディ川崎に0-5で大敗するも、優勝の可能性を残していた横浜フリューゲルスも浦和レッズに0-3で屈していた。 「今日の試合に関してはいくらでも言えることがあるし、ケチをつけられることもあると思うんですけど」 スーツ姿に着替えて試合後の取材エリアに姿を現したMF中村憲剛が、ちょっぴりバツが悪そうに切り出した。最終節で奇跡の大逆転劇を成就させ、ホームの等々力陸上競技場のピッチで人目をはばかることなく号泣した昨シーズンとは対照的な戴冠。それでも、38歳になったばかりの大黒柱は胸を張った。 「チャンピオンとして臨むシーズン、勝って当たり前だろうと思われながら臨むシーズンの苦しさを感じました。昨シーズン(に感じたもの)とはまったく別物でしたけど、それらをはねのけてここまでやってきたことに対しては、自分たちの力を評価していいと思う」 人とボールを絶え間なく動かしながら試合を支配する、風間八宏前監督のスタイルをさらに進化させて手にしたクラブ悲願の初タイトルを境に、追う立場から追われる立場になった。迎えた今シーズン。対戦相手のほとんどが、たとえるなら「肉を切らせて骨を断つ」戦い方で挑んできた。 フロンターレとの埋めがたい実力差を認めたうえで、自陣で形成した強固なブロックの周囲であえてパスを回させる。そして、狙いを定めてボールを奪うや乾坤一擲のカウンターを仕掛ける。前半戦だけで4つの黒星を喫し、首位を快走するサンフレッチェに一時は勝ち点で13ポイントもの大差をつけられた。 しかし、フロンターレもまた新たな武器を搭載しつつあった。前半戦こそピッチ上で具現化させるのに手間取ったが、ワールドカップ・ロシア大会による中断が開けた後半戦から、明確な数字とともに発動されてきた。それは「被シュート数の少なさ」――となる。