【ブームから35年「ヘビメタ」の現在地】バンドもファンも世代交代進まず高齢化 ライブ会場は2階の椅子席から埋まる現実 「昔は皆でヘドバンしたけど…」
あらゆる音楽のジャンルの中でも、「激しさ」という部分で他の追随を許さないのがヘビーメタル。天まで突き抜けるようなハイトーンや“デス声”のボーカル、歪んだ音色で速弾きするギター、手数と足数がとにかく多いドラム……。まさに「轟音」という表現が相応しい音楽でコアなファンを獲得してきたが、その裏でファンの“新陳代謝”は進んでいない現状があるようだ。 【写真】メンバーの平均年齢は60代、2024年のIRON MAIDENのパフォーマンスの様子
Mさん(50代/男性)は高校生の時にメタルにハマり、足繁くコンサートに足を運んだが、社会人になるとすっかりご無沙汰に。旧友から誘われたことで、メタル界の頂点に君臨するイギリスのバンド「IRON MAIDEN」が9月下旬に行なった来日公演に出かけた。 メタル系アーティストのライブは約30年ぶりだったMさん。まず驚いたのは「チケット代の高さ」だったという。 「大学時代は確か7000円ぐらいだったと思いますが、今回は1万8000円。バンドTシャツも3000円前後だったものが8000円で、ジャパニーズマネーの弱さを感じましたが、それよりも驚いたのは客層です。 IRON MAIDENはデビューから40年以上経っているので、ある程度年齢層が高いのは想像できましたが、会場に入ると客席は見事におじさんとおばさんばかり。昔は客電が消えると、みんな一斉に立ち上がり、いわゆる“ヘドバン”をしたものでしたが、今回のライブでは客電が消えても私の周りの観客は座ったままで、アンコール最後の曲まで1度も立ち上がることなくライブを見終えました」(Mさん)
メタル専門誌の表紙に登場するバンドも還暦超え
ベテランバンドなら客の平均年齢が上がるのは当たり前。本来なら座席は“座るため”に存在するのだから、正しい姿に戻ったとも言えるが、この光景はIRON MAIDENに限ったものではないという。メタルに詳しい音楽ライターが言う。 「ハードロック&ヘビーメタルがピークを迎えたのは、BON JOVI、DEF LEPPARD、GUNS N’ ROSES、WHITESNAKEといったバンドがビルボードのアルバムチャートの上位を占めた1980年代の後半です。海外では90年代に入って失速したものの、日本ではむしろ90年代がピークでしたが、そこから日本は“ガラパゴス化”します。 海外では新人バンドがどんどん登場し、適度にファンも入れ替わりましたが、日本のメタル界隈で人気が高いのは、70年代や80年代から活動しているバンドか、日本だけで人気がある“Big in Japan”のバンドばかり。以降、今に至るまで新陳代謝がほとんど進まず、メタルバンドの来日公演の平均年齢は年を追うごとにどんどん上がっています」(音楽ライター) メタル界の世代交代が全く進んでいないことは、メタル専門誌「Burrn!」の表紙を飾ったアーティストを見れば一目瞭然だ。同誌は2024年10月号で40周年を迎え、40年を振り返る特集コーナーを設けているが、2024年発売号の表紙を見ると、 1月号:David Coverdale(WHITESNAKE) 3月号:KISS 4月号:JUDAS PRIEST 6月号:Bruce Dickinson(IRON MAIDEN) 7月号:Slash(GUNS N’ ROSES) 8月号:MR.BIG 10月号:IRON MAIDEN と、10号中7号が80年代から活躍しているアーティスト。この他にもMETALLICA、AC/DC、MOTLEY CRUE、HELLOWEEN、MEGADETH、BLACK SABBATH、Ozzy Osbourne、Michael Schenker、SLAYERなどが2020年代に入って表紙を飾っており、オールドスクールなバンドが占める表紙を飾る割合は8割を大きく超える。これらのバンドのメンバーは全員が還暦超えだ。