[MOM4862]神戸U-18FW渡辺隼斗(2年)_悩めるストライカーの咆哮!「神戸のルカク」が久々のプレミアゴールでリーグ9連勝達成のヒーローに!
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ] [10.19 プレミアリーグWEST第19節 神戸U-18 1-0 岡山U-18 いぶきの森球技場 Cグラウンド] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 そのストライカーは、とにかく苦しんでいた。チームが8連勝と好調をキープし続け、首位追撃に意気上がる中で、出場機会もなかなか得ることができず、何より望んだような結果が付いてこない。でも、諦めなかった。オレならできると、オレなら決められると自分自身に言い聞かせて、視線をゴールだけに合わせ続けてきたのだ。 「『もう今日はオレがヒーローやな』と試合が終わった瞬間に思いましたね(笑)。今季はプレミアで全然点を決められていなくて、やっと決められたという気持ちで、チームも勝てて良かったですし、メチャメチャ嬉しかったです!」 豪快さと繊細さを合わせ持った、ヴィッセル神戸U-18(兵庫)の9番を託されている『神戸のルカク』。FW渡辺隼斗(2年=ヴィッセル神戸U-15出身)が執念で奪った3か月ぶりのプレミアゴールが、チームに大きな勝点3を逞しくもたらした。 「ケガが明けてからなかなかうまく自分自身のプレーを出すことができなくて。自分の得意なプレーもそうですし、得点以外のところでもなかなか自分の良さを出せていなくて、悪いところばかり目立つ試合がずっと続いていたので、『そろそろ点を決めないと……』という焦りはずっとありました」。 1年生だった昨季のプレミアリーグWESTでは、チーム2位タイの6ゴールをマーク。新シーズンはストライカーナンバーの9番を渡され、プレミア得点王を目標に掲げていた渡辺だったが、開幕前に負ったケガの影響で短くない戦線離脱を余儀なくされる。 5月18日に行われた第7節の神村学園高戦で、ようやく今季初出場。第11節のファジアーノ岡山U-18戦ではスタメン起用に応えて2ゴールを奪い、復調をアピールしたものの、以降は公式戦でのゴールという結果に恵まれず、少しずつ悩みの森に迷い込む。 「収める部分や点を獲る部分の感覚がなかなか思い出せないというか、うまくいかないことがずっと続いてきたので、『このまま終わってしまったらヤバいな……』とか『うまくできるかな……』とか、自信がなくなるほどではないですけど、ちょっとマイナスなことを思っていた時もありました」。サッカーキャリアの中で初めてと言っていいぐらいの感覚の中で、17歳はきっかけを掴もうと懸命にもがき続けていた。 10月19日。第19節。岡山U-18をホームに迎えた一戦も、スタメンとして最前線の位置に入ったのは後半戦で5試合連続ゴールを叩き出すなど、絶好調のFW吉岡嵐(3年)。悩めるストライカーはベンチから出番が来るタイミングを窺うことになる。 試合はやや神戸U-18が押し気味に進めたものの、前半の45分間はスコアレスで推移。すると、後半も中盤に差し掛かったころ、アップエリアの渡辺に声が掛かる。「交代で入る時は0-0だったので、自分の仕事は点を決めることだとは出る前から思っていましたし、安部さん(安部雄大監督)にも『1本行ってこい』と言われたので、『今日こそは決めないとな』と思っていました」。出すべき結果はゴール一択。後半20分。強い決意を持って、雨の降るピッチへと駆け出していく。 「やっぱり家族への恩返しの想いもそうですし、自分を支えてきてくれた人のことも考えながら、『消極的なプレーばかりしていたらダメだな』と思うことは、自分を奮い立たせるためにずっとやってきたことですね」。周囲には自分に期待してくれている人たちがいる。その想いに応えるためにも、今日こそやるしかない。 0-0で迎えた後半37分。神戸U-18は右CKを奪う。「もう点のことしか考えていなかったので、『どんな形でもいいから自分が点を獲ってやる』と思っていました」。キッカーのMF濱崎健斗(2年)を信じて、ゴール前にポジションを取る。軌道が見えた。ニアだ! 「ボールが入ってきた時にうまく相手のマークも外せたので、『これは来たな』と感じましたし、思っていた通りに逸らせた感じだったので、頭に当たった瞬間に『もらったな』と思いました」。ヘディングで方向を変えたボールは、左スミのゴールネットへ飛び込んでいく。 「今季はプレミアで全然点を決められていなくて、やっと決められたという気持ちで嬉しくてしょうがなかったです。やっぱりプレミアで獲るゴールは本当に気持ち良いですね。練習試合とかAチームのサブの試合とかでは点を獲り続けることはできていたんですけど、プレミアは全然違うなと思いました」。実に3か月ぶりに挙げたリーグ戦3点目となる先制ゴールは、そのままこの試合の決勝点に。渡辺がようやく手繰り寄せた結果は、チームの勝利に直結する、大きな、大きな1点になった。 「僕は正直、ちょっとゴチャッとなって見えなかったので、最初は誰が獲ったかわからなかったんですよ(笑)。(山田)海斗か原ちゃん(原蒼汰)かナベかみたいな感じだったんですけど、ベンチでみんなが『ナベ!ナベ!』と言っていたので、それは嬉しかったですね」。 笑いながらそう明かした安部雄大監督も、ストライカーの心境を慮る。「渡辺自身も苦しんでいましたけど、調子は悪くなかったですし、『1本獲れれば爆発してくれるんじゃないかな』という期待もありましたし、それで頑張ってやり続けたことが結果に繋がって良かったなと思います」。 今季のキャプテンマークを巻いてきたDF山田海斗(3年)が、渡辺について語っていた言葉も印象深い。「ケガもあってなかなか結果が出ていなかったですけど、隼斗のことはみんな信用しているので、隼斗が結果を出して勝てたことは本人もチームも非常に良かったかなと思います。今日はなかなか獲れなかったですけど、セットプレーで途中から入った隼斗が点を決めてくれたのは、今のチームの強さというか、入ってきた選手もやってくれるというところが光った試合だと思います」。 渡辺自身は先輩たちから向けられてきた言葉が、自分にもたらしてくれた影響についても言及する。「みんなから『やっと決めたな』と言われましたし、悠庵には『やっとやな!やればできるんやから、これからももっとやれよ!』言われて(笑)、ちょっとこの試合で自信を取り戻せたかなと思います。先輩方のみんなは自分が苦しい時にもプラスの声掛けばかりしてくれて、それでメッチャ救われてきたところはあります」。みんながこの人を信じていた。みんながこの人のゴールを待っていたのだ。 待望の1点は、手にしてみせた。ただ、もちろんこれだけの結果で満足しているはずもない。次戦は首位を走っている大津高との直接対決。チームの今シーズンを左右するビッグマッチでも、その先に続くリーグ戦の試合でも、もう自分のやるべきことは明確すぎるぐらい明確だ。 「大津も首位を走っているチームで、次は絶対に勝たないといけない試合なので、得点という形で結果を出したいですね。1点入ったらたぶんどんどん行けると思うので、この1点で一喜一憂せずに、これからも自分が点を獲り続けて、自分の点でチームが勝てるようにしたいなと強く思っています」。 発散すべきエネルギーは、自分の中に充満しまくっている。あくまでもこの日の1点は、ここから爆発するための1つのきっかけ。神戸U-18のレフティストライカー。渡辺隼斗の2024年には、まだまだ自身の真価を証明するための舞台が、確実に残されている。 (取材・文 土屋雅史)