震災テーマの映画「最後の乗客」 共感広げ異例のロングヒット 上映を通して伝えたいメッセージ〈仙台〉
仙台放送
仙台市出身の監督が東日本大震災をテーマにオール仙台ロケで製作した映画「最後の乗客」が、異例のロングヒットとなっています。クラウドファンディングを利用して自主製作という形で作られましたが、全国に共感が広がり上映する映画館が増え続けています。 物語の舞台は、東日本大震災から10年が経った東北の街。ある日、タクシードライバーの遠藤が乗せた若い女性客。行き先は、津波被害を受けた「浜町」です。途中から同じ「浜町」に行ってほしいという幼い娘と母親も乗り合わせます。1台のタクシーに乗り合わせた4人の記憶とともに、物語は思わぬ展開を見せます。 クラウドファンディングで資金を集め、オール仙台ロケで自主製作された映画「最後の乗客」。今年3月、仙台の一つの映画館で上映が始まりましたが、その後、世界各国の映画賞を受け日本国内でも公開が広がるなど、自主製作映画としては異例のロングヒットになっています。 11月5日、仙台市内ではその快挙を記念して舞台挨拶が行われました。 遠藤みずき役 岩田華怜さん 「もう2回目ですとか3回目ですとか、7回見ましたという方もいらっしゃって、こんなに愛していただいているんだと私たちの作品がと衝撃を受けまして本当に心から感謝の気持ちでいっぱいです」 主演を務めた仙台市出身で元AKB48の岩田華怜さん。留学先のニューヨークから急きょ帰国し、喜びの気持ちを伝えました。岩田さんが演じたのは、母親を亡くしタクシードライバーの父と暮らす娘、遠藤みずき。父親のことが嫌いなわけではないのに、つい反抗的な態度をとってしまいます。そうした中、大学受験のため東京へ旅立ちますが… 東日本大震災がテーマのこの映画で、岩田さんは被災した人の痛みや悲しみと向き合う重さを痛感していたと話します。 遠藤みずき役 岩田華怜さん 「見る人、捉え方によって、私たちの映画が誰かを傷つけてしまったら嫌だなってやっぱり思うので、それがないように自分の最善を尽くすしかないので、もう本当に本当にたくさん考えましたよね。『震災の記憶を思い出すこと自体やだ』というせりふが映画の中にある。すごく自然な感情だと思いますし、そりゃそうだよねって私も思った」 岩田さん自身も、小学6年生の時に仙台で東日本大震災に遭いました。この映画には「震災を特別な日と捉える必要はない」そして「つらいときは立ち止まっていい」というメッセージがあると話します。 遠藤みずき役 岩田華怜さん 「向き合えないんだったら向き合わなくていいじゃない。頑張らなくていい、もう思い出さなくていいし、頑張らなくていいよっていうメッセージ性があるなっていうふうに個人的には思っている」 自主製作ということもあり、撮影はわずか5日間で行なわれたそうです。撮影の中でキャスト陣の心を支えたのは監督の熱意だったと岩田さんは振り返ります。 遠藤みずき役 岩田華怜さん 「(監督の)絶対に妥協しないって姿勢を撮影当時から見ていたので、私たちもこの人の思いに応えなきゃいけないっていうふうにみんな感じているので、すごくぎゅっと、みんなの心が一つになったんだろうなと思う」 メガホンをとった仙台市出身の映像ディレクター、堀江貴監督。震災の前からニューヨークで生活している堀江監督は、現地で年々震災の話題に区切りがつけられていく風潮に悔しさを感じ、もう一度振り向いてもらうきっかけにしたいと映画の製作を決意したそうです。ニューヨークの堀江監督に話を聞きました。 堀江貴監督 「『まだ震災のことやってるの?』『もうそれはいいんじゃない?』みたいな、それがちょっと悔しいというか、やっぱり忘れてほしくない、風化させてはいけないという使命感にとらわれた」 監督が映画を通して伝えたかったこととは…。 堀江貴監督 「毎日があるって本当に奇跡で、それが当たり前に感じているかもしれない。それは当たり前じゃないということに気づいてもらって、この一日を大切に、一生懸命生きることが大事だということが伝わればいいと思った」 全国公開は17館から始まりましたが、10月末には53館に広がり、ついには今年度の日本アカデミー賞の選考対象作品にも名を連ねました。映画を見た人は。 山元町出身の女性(2回目の観賞) 「今、自分は生かされているんだなということを強く感じたので。この映画に出てきたみずきさんのように何年か経ってでも前を向いて進んでいけるって素敵なことだなと思いました」 青森県出身の男性(初めて観賞) 「(震災の)トラウマというのはやっぱり幼少期だったものですから残ってしまって、今でも『うっ』となることもあるんですけど、そういう考え方もあるんだなというのもあった」 それぞれが抱える震災への思いと共に、改めて「生きることの儚さ」を見つめる映画「最後の乗客」。 堀江貴監督(Q、どんなふうに見てほしい?) 「半分のピースはお客さん、見た人が作ってそれで完成する映画だと思っているので、そこは自分が好きなように解釈してもらって、それぞれの物語を作ってもらえればいい」 遠藤みずき役 岩田華怜さん(Q映画に込めた思い) 「この映画を見てくださった全ての方が、何か苦しいな、生きづらいなとか。すごく自分が許せないなとかって思ってる方がもしいらっしゃったら、そっとこう肩に手を置いて1回休んでみてもいいんじゃないっていうふうに、そんなことが伝わってくれたらいいなと思っています」 人生の大切な時間を大切な人と分かち合える尊さを、この映画は静かに、そして力強く語りかけます。
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