袴田事件再審、なぜ検察は再び死刑を求刑したのか?「歴史に汚点」でも「冤罪・ねつ造の疑い」を認められない理由
■ 「検察の威信」へのこだわり まず挙げられるのは、死刑が確定しているという重大事件において、過去の捜査の誤りを判決前に認めることは、検察の威信を根底から揺るがしてしまうという危機意識です。仮に冤罪を認めることになれば、真犯人はどこにいるのかという問いにも答えなければならなくなってしまいます。 20年以上も前の事件の捜査をやり直すことは相当な困難が伴うでしょうし、現実的ではありません。 さらに、「検察・捜査当局は間違わない」という“虚構の神話”も無視できません。 起訴された者が有罪になる割合(有罪率)は96%に達しており、逆に無罪率はわずか0.2%。いったん起訴されたらほぼ全員が有罪になっていますが、検察や捜査当局が証拠を隠したり、ねつ造したりする例は過去何度も明らかになっています。そうした非を検察・捜査当局はなかなか公式に認めません。 “間違わない組織”という看板のもと、検察は再審開始に追い込まれたとしても、自らの過去の誤りを認めることもほとんどないのです。 では、袴田事件の再審公判で検察側がまたも死刑を求刑した背景には、どんな考え方があるのでしょうか。
■ 「証拠ねつ造濃厚」に真っ向から反発 袴田事件の再審公判で検察側は、袴田さんが真犯人であると立証する際、半世紀前の公判とほぼ同じ主張を繰り返しました。弁護側は新証拠を示したうえ、袴田さん有罪の決め手となった衣類5点について静岡県警の捜査員らがねつ造したものだと主張していますが、検察側は「非現実的で実行不可能な空論だ」と切り捨てています。 その一方、再審開始を認めた東京高裁の決定への反発も大きいと言われています。 東京高裁は決定のなかで、衣類5点はねつ造だった可能性が「極めて高い」と指摘し、弁護側の主張に沿った判断を展開していました。証拠ねつ造の疑いが濃厚としてスタートした再審。それをそのまま受け入れることはできず、「ねつ造の疑い」だけは払拭しておきたいとの考えがあるからです。 袴田事件が起きたのは1966年。今と同じ6月のことでした。高齢になった袴田さんは9月の判決で、どんな司法判断を聞くことになるのでしょうか。 フロントラインプレス 「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
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