『街並み照らすヤツら』大きく“動く”森本慎太朗の心情 本物の“正義”を貫く宇野祥平
商店街を取り壊して再開発しようと目論む大村(船越英一郎)と、その息子でデベロッパーの光一(伊藤健太郎)。保険会社と結託した2人は、偽装強盗に目を瞑る代わりに店主たちに立ち退きを要求。その脅迫まがいのやり口に、向井(竹財輝之助)をはじめとした何人かの店主たちは尻尾を巻いて商店街から逃げ出していく。その一方、彩(森川葵)はシュン(曽田陵介)が「恋の実」に入った強盗のひとりであることに気付き、同時にあれが偽装強盗だったことを知る。案の定激昂した彼女は、正義(森本慎太郎)をきつく問い詰めるのである。 【写真】ツチヤ(でんでん)と話す正義(森本慎太郎)と木(浜野謙太) 5月25日に放送された『街並み照らすヤツら』(日本テレビ系)は、物語の折り返し地点となる第5話。正義が前回、大村をなんとか説得して開催することになった商店街の街コンが盛り上がっているなか、怒りをあらわにしながら偽装強盗についての説明を求める彩と、それを宥めようとする正義。商店街を歩きながら口論するこの夫婦を画面の中心に収めたまま、背景にはこれまでと打って変わって賑わいを見せる商店街の様子と楽しげな人々の姿。これらを1分半ほどの長回しによる移動ショットで見せることで、今回のエピソードはあらゆることが“動く”と示されているかのようだ。 そのなかで最も大きく“動く”のは、もちろんこのドラマの主人公である正義の心情に他ならないだろう。偽装強盗をしたという結果よりも、“店のため”に思い悩んで起こしたことに自分が一切関与しなかったこと、そしてそれを知らされてもいなかったことに怒る彩に対し、商店街中に偽装強盗の輪が広がったことで「みんなも感謝してくれた」と満足げに語る正義。すでに彼は「商店街のため」「みんなのため」という魔法の言葉――ほとんど一種の麻薬のようなものにすっかりのめり込んでしまっていることがよくわかる。 だからこそ火災保険の保険金を得るために使用していない倉庫に火をつけてほしいという、ツチヤ(でんでん)からの危険な依頼もあっさりと承諾してしまう。言わずもがな、その決断が正義をどん底まで突き落とすことになり、幸か不幸か、おそらく彼を目覚めさせる一つのターニングポイントとなるのであろう。倉庫が燃えたあとにクラブを建てようと言いだす荒木(浜野謙太)の計画が、大村の考える再開発計画と何ら変わりのないことに気が付き、そして放火計画の最中に倉庫のなかで倒れている人物を見つけ、すでに火が放たれたなかから助けだすなかで完全に我に返る。 第1話の冒頭シーンに回帰するこの終盤の一連。“ただ普通の生活がしたいだけなのに”というモノローグと俯き加減で街を走る正義の姿だけで、あえて画面に映さなくとも第1話からこれまで描かれてきた正義の2カ月間(第1話は倉庫火災から2カ月遡ったところから物語が始まっていた)の転落模様が走馬灯のようによみがえってくる。帰宅した彼を待ち受けているのは、我慢の限界に達して家を出て行ってしまった彩が残した書き置きと、空虚に2階の窓から降りた縄梯子。そして、荒木が捕まったことを知らせにきた日下部(宇野祥平)。それはもはや、彼が“普通の生活”には戻れないことを示しているわけで。 今回のMVPは、なんといっても日下部であろう。しれっと街コンの様子を伺いに来たり、すっかり街の中に溶け込んでいく。トミヤマ(森下能幸)に話しかけ、彼が“元警察”ではないかと見抜く相馬眼。正義に同情し、偽装強盗のことを知りながらも「応援します」と言いにきてしまう澤本(吉川愛)をたしなめ、そしてラストカットで自分こそが正義の前に立ちはだかる最も大きな壁であることをアピールするかのように静かな迫力を放つ。その対峙は、これまで幾多の物語で描かれてきたような犯罪者と警察官の攻防劇の幕開けを想起させる。ドツボにハマっていく正義に対して、やんわりと本物の“正義”を貫く男。恐るべし。
久保田和馬