旧車の王様として、今なお高い人気を誇る「ハコスカ」ことC10スカイライン。|旧車図鑑 FILE:01
日本の歴史に名を残すクルマたちを紹介する旧車図鑑。 第1弾は歴代スカイラインでも特に強烈な印象を残し、今も多くの熱狂的なファンを持つ、3代目のC10スカイラインを取り上げていこう。 ファンからは通称「ハコスカ」のニックネームで愛され、現役当時の世代だけでなく、平成生まれの若い人たちにもファンが多い。 【画像22枚】1500のセダンに始まり、2000GT、ハードトップとバリエーションを追加していったC10系スカイライン。 スカイラインはもともと、プリンス自動車工業によって開発されたクルマである。 杉並区の荻窪に本拠を構え、村山に工場を持つプリンス自動車の人たちによって、2代目S50系の後継モデルとして開発されていたC10スカイラインだが、開発も佳境に入った1966年、プリンスは日産自動車に吸収される形で合併する。 結果的にC10は1968年夏に「ニッサン」ブランドを掲げて登場したが、上層部の判断次第では開発中止、車名断絶もあり得た。 だが、紆余曲折はあったものの、細部を手直しし、日産車と部品を共用化して市販にこぎ着けたのである。 そのため、日産として初めて新型車として発売したスカイラインであるが、実際にはプリンス時代に開発された「S7」が元になっており、発売当初のエンジンもプリンス製のG15型が搭載されていた。 スカイラインの育ての親である櫻井眞一郎さんは生前、ハコスカの発売にあたり「2代目のフィロソフィーを受け継ぎ、存在価値を積極的に出そうと、荻窪(プリンス自動車)出身のエンジニアは一丸となって頑張ったのです。出すからには最高のセダンに仕上げよう、とシートの表皮にも気を配り、匂いや音にもこだわりました。静かにするだけでなく、心地よいエンジン音にしているのです。計器で測れないものを体のセンサーを使い、感覚によって選んでいったんですよ。ドアの開閉音にまで気を配ったのが、3代目のC10でした」と述べている。 こうして誕生した3代目C10系スカイラインは、「100マイルカーとして満足できる高速性」「空気力学的なダイナミックなスタイル」「カーブドガラス、新サスペンション機構などの採用による快適な居住性」「前輪ディスクブレーキ、ヘッドレスト装着可能シートの採用、可倒式フェンダーミラー、安全車体構造など、信頼できる安全設計」「徹底したメンテナンスフリー」と言った特徴を持ち、より高速化する新時代に対応していた。 1968年8月に最初に発売されたのが、G15型直列4気筒エンジンを積むスカイライン1500。セダンとバン、エステート(ワゴン)が用意されていた。 その2カ月後には、長いノーズにL20型直列6気筒エンジンを収めた2000GTがベールを脱いだ。 フロント部分を後から延長した2代目のGT(6気筒エンジンモデル)とは異なり、4気筒モデルよりプロポーションバランスがよく、インテリアもスポーティーなデザインだったから、クルマ好きだけでなく新たなファン層も獲得した。 2000GTは時代に先駆けてリアをセミトレーリングアームとした4輪独立懸架のサスペンションを採用。 当時、リアサスペンションの主流だった固定式のリジッドアクスルに比べ、卓越したコーナリング性能と気持ちいいハンドリングを実現した。 日本車離れしたダイナミックなデザインと操る楽しさを持ち、走りのよさにこだわる人はGTに飛びついた。 1969年2月には2000GT-Rが遅れて登場するが、DOHCのS20型エンジンを搭載し、伝説的な人気を獲得しているGT-Rに対し、L20型エンジンのGTはその扱いやすさやチューニングベースとしての素性の良さなどから、GT-Rとはまた別の人気を当時も今も獲得している。 レーシングエンジン直系のS20型DOHC4バルブを積み、レースでは出場するたびにコースレコードを更新し、GT-R伝説を生み出したスカイラインGT-Rについては、別のページで改めて紹介しよう。 1969年8月には、4気筒エンジン搭載車もアップグレード。排気量を300cc拡大して余裕を増した1800シリーズを送り込んだ。 2000GTの陰に隠れて目立たなかったが、上級モデルの投入によりバランスの取れた4気筒エンジン搭載車は再び注目を集めている。 このころから「愛のスカイライン」のキャッチフレーズを使うようになり、週末ごとにフェアを開催。 知名度が一気に高まり、スカイラインの人気が不動のものとなったのはこの時期である。 そして70年秋には、真打の2ドアハードトップ(HT)が仲間に加わる。 1500からGT-Rまで、各モデルにHTモデルが追加(GT-RはHTのみに移行)された。 ホイールベースを切り詰めたことでボディ剛性が高まり、ハンドリングも軽快だった。気持ちいいコーナリング性能を身につけ、コントロールできる限界も大きく向上していた。 とくにGTおよびGT-Rでは重い6気筒エンジンを積みながら振り回しても楽しいクルマに仕上がっていた。 「ハコスカ」ことC10系スカイラインは、歴代のスカイラインのなかで最も強烈なキャラクターの持ち主で、強いオーラを放っている。高い性能を持ち、コマーシャル戦略も奏功した。ユーザーだけでなく日産の川又克二社長(当時)も気に入っていたようだ。21世紀の今も多くの人に愛され、慕う人が後を絶たない。その理由は、当時の国産車としてはポテンシャルが驚くほど高く、潜在能力も高かったからである。20世紀の自動車史に残る名車と言えるだろう。
Nosweb 編集部