刑務所内でのライブは500回以上。受刑者のアイドル「Paix²(ぺぺ)」がプリズンコンサートで披露する唯一無二の音楽
受刑者の胸を打つメッセージ性の強いトーク
──通常のアイドルとは異なる“スポットの当たり方”だからこそ、アーティスト活動を続けていく上で意識していることを教えてください。 めぐみ 私はプリズンコンサートの合間に「メッセージ性の強い言葉」をトークに盛り込むようにしています。もちろん、楽しんでもらうための明るいキャラでの話もするんですが、社会で罪を犯した人が参加するプリズンコンサートで、「単に楽しいだけではダメだな」と思っていました。 そこで、出所者からいただいたお手紙を読んだり、看護師時代の経験を話したりしていくうちに、私自身も「人の幸せ」や「人間観」を勉強するようになったんです。最初はプリズンコンサートのためにいろいろと勉強したわけですが、気がつけば、そうした学びがあったおかげで昔の自分よりも今の自分のほうが生きやすくなったなと感じています。 受刑者に対してメッセージを投げかけているはずが、自分にも深く入ってくるんですよ。そういう意味では、音楽だけに留まらない時間を過ごさせてもらっていることは、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。受刑者の方からも、感想文を通じてフィードバックが返ってくるので、「学び」は終わらないというか。生涯勉強する気持ちで、Paix²の活動は続けていくつもりです。 まなみ “受刑者のアイドル”と私たちの活動をメディアに取り上げていただく機会もあり、とても光栄なのですが、楽曲にもいい曲があるんです。実際、一般のファンの方は、プリズンコンサートではなく楽曲からPaix²のことを知ってくださる方も多いんです。
1つの曲が「罪と向き合う」きっかけに
──2000年のデビュー以来、500回以上もプリズンコンサートを行なってきましたが、その原動力はどこにあるのでしょうか? まなみ 2000年にPaix²を結成し、音楽活動をスタートしたわけですが、最初は小学校や中学校を中心にライブを行っていました。そんななか、何事も勉強のうちだと思い、初めてプリズンコンサートを行なったのが2000年12月の鳥取刑務所でした。 それから数回プリズンコンサートをやらせていただく機会があったんですが、刑務所の中に受刑者がいるということは、「塀の外には被害者や遺族がいる」ということをしだいに意識するようになって。そうした背景を考えて活動するようになってからは、「自分の罪や被害者に向き合うきっかけになった」という形で、受刑者の方からいただく感想文の内容もガラッと変わってきたんです。 また、社会復帰した元受刑者の方も、私たちが出演する一般のライブに来てくださるようになりました。その姿を見たときに「Paix²のプリズンコンサートは間違っていなかったんだ」とあらためて感じましたね。 二度と犯罪は犯さない。 こうした思いを持って、私たちに会いに来てくれていると思うので、そういう人がひとりでも増えていくと、より社会が明るくなっていくかもしれない。これが私にとって、Paix²を続ける原動力になっています。 めぐみ 一番最初に故郷の鳥取刑務所でコンサートを行ったときは、まだインディーズの頃でした。当時はインターネットやSNSもない時代ですから、ドラマに出てくる刑務所のイメージしかありませんでした(笑)。今のような余裕はまったくなく、ひたすら緊張していて。本当にただ歌うだけのライブだったのを覚えています。 その後、2002年に鳥取県で行なわれた警察音楽隊のイベントにPaix²が出演したんですが、そのライブに1回目のプリズンコンサートを観ていた出所者の方が来てくださって。しかも、花束とお手紙を持って来られたんですよ。イベントの本番前だったんですが、「うまく言葉では伝えられないので、お手紙にしたためてきました。ぜひ今読んでみてください」と渡されて。 手紙にはPaix²の楽曲『元気だせよ』を聴いたことで、自分の励みになり、社会復帰に向けて頑張ってこれたという内容が記されていました。出所者の方との出会いは、実はそれが初めてだったこともあり、今でも感慨深い思い出として残っています。プリズンコンサートを重ねていくうちに、出所者の方とお会いする機会も増えてくると、私たちの活動が微力ながらも社会に役立っているなと思うようになって。 それがプリズンコンサートを今でも継続するモチベーションにつながっています。 取材・文/古田島大介 撮影/村井香