学校や図書館で禁書の申請が過去最多に、米国で何が起こっている? 標的にされる本とは
禁書の対象にされやすい作品と分野
現在、米国で本を禁止する動きはかつてないほど高まっている。言論の自由を擁護する非営利団体「ペン・アメリカ」によると、2021年7月から2022年3月までの9カ月間だけで、26州の86学区で1586冊が禁書処分になったという。影響を受けた生徒は200万人以上になる。 最も多かったのはLGBTQ+問題を取り上げた本や、主人公がLGBTQ+の本だが、ほかにも人種差別、性的暴行やそのほかの性に関する内容、死と死別の悲しみを扱った本も含まれている。数としてはテキサス州が最も多く、全体の半分近くを占める713冊が禁じられた。 米国図書館協会によると、2023年に最も禁書の請求がなされたのは、ノンバイナリー(性自認が男女の二元論に当てはまらない)であるとはどういうことかを描いたマイア・コベイブ氏の自伝漫画『ジェンダー・クィア:私として生きてきた日々』だった。また、トニ・モリスン氏の『青い眼がほしい』やスティーブン・チョボスキー氏の『ウォールフラワー』も標的にされている。 憲法修正第1条の支持者で、サウスカロライナ州の中学校と高校で長年司書として勤務し、米国図書館協会の知的自由委員会の委員長も務めたパット・スケールズ氏は、あからさまな検閲は禁書の一つの側面に過ぎないと指摘する。 たとえば、閲覧者の手の届かない場所に本を移動させたり、表紙を隠したり、対象年齢を引き上げて読めないようにしたりすることでも、読み手になるはずの生徒から本が遠ざけられてしまう。また、どんな形であっても本の制限を求める行為は、図書館員を萎縮させうる。 スケールズ氏は2007年に、自著『Scales on Censorship』で次のように書いている。「検閲とは支配すること、知的な自由とは尊重することです」
文=Erin Blakemore/訳=荒井ハンナ