米バイデン政権が中国EVの関税を100%に 米中リスク回避より“もしトラ”阻止
「スモールヤード・ハイフェンス」(小さい庭に高いフェンス)戦略で自国産業を保護しつつ、11月の米大統領選を控えて、対中姿勢を巡る争点を打ち消す──。バイデン米大統領は5月14日、中国製品への制裁関税強化を発表したが、政治・経済両面でのしたたかな思惑がうかがえる。 関税強化は、米通商法301条に基づく措置で、中国製の電気自動車(EV)に課す関税を現行の4倍の100%に引き上げるとともに、半導体や鉄鉱なども大幅に引き上げる。 ホワイトハウスの声明文には、14の対象品目リストが掲載されている。対象品目の対中輸入額は約180億ドル(約2.8兆円)に上るが、2023年の対中輸入額全体では約4%にとどまる。網羅的に引き上げるのではなく、重要な分野に的を絞って中国のプレゼンス拡大に対する防御壁を高くするという戦略だ。 こうした措置により、EVを中心とする米先端産業・国内市場の保護と、サプライチェーン(供給網)の「脱中国」を進める狙いも浮かび上がる。EVの関税率は年内にも100%へ引き上げられるが、完成車にとどまらない。EVに欠かせない部材・部品についても引き上げられる。例えば、半導体は25年に50%、車載用リチウム電池は26年に25%、永久磁石も同年に25%にそれぞれ引き上げる。 バイデン政権は、インフラ投資法やインフレ抑制法(IRA)のほか、半導体供給を強化する「CHIPS(チップス)及び科学法」を成立させ、EVの普及・国内生産体制の強化を進めてきたが、追加策を講じなければ努力が水泡に帰す恐れが高まる。 ■「100% vs. 60%」 米商務省によれば、中国からのEV輸入台数は23年現在6738台で、米国内EVの年間販売台数の0.6%弱にとどまる。少ないようだが、関税率25%でも米国に輸入されているということは、圧倒的な価格競争力の表れでもある。実際、欧州では中国製EVに域内市場が席巻されている。早い段階でEV拡大の芽を摘みとり、欧州の二の舞いになることを避けたいとの狙いがある。