優勝の中嶋一輝に100万円とロレックス……決勝はドローで優勢決着も意義深かった山中慎介バンタム級トーナメント
中嶋は1回戦で渡辺健一(ドリーム)、準決勝では、セレス小林会長、期待のホープ、南出仁(セレス)を共に1回KOで下し決勝進出を果たしていた。目を見張る成長ぶりがあったが、チャンピオンメーカーの大橋会長は、「パンチを効かしたが、そこからいけない。今までは良かった。確かに成長したが、今日でまた止まっちゃった。相手が研究してくるのはわかっていたが対処できなかった」と厳しかった。 大橋陣営は、KOシーンを作れずストレスが溜まったが、試合には、いつ中嶋の爆弾が爆発するかのピリピリ感があり、技術と戦略でそれを不発弾にした堤の懸命なファイトは、1365人の後楽園のファンをエキサイトさせていた。 大会アンバサダーの山中氏は、「大成功」と初のトーナメント開催を総括、満足そうだった。 「まさかドローとは考えていなかったが、見ごたえのある決勝にふさわしい試合内容だった。お互いにどうか?と採点を聞いたのでしょうが、これを次に生かしてまた成長した姿を見せて欲しい。ドロー判定だが、今後、上へ行けるという自信を2人ともつかみ、お互い成長できたんじゃないか。3試合でしっかりと結果と内容を出した中嶋君は、初代王者にふさわしいと思う。トーナメントは単発の試合よりも成長しやすい。1回戦から、いい選手が集まりKOもあっておもしろい試合が続いた。トーナメントに参加してくれた選手に感謝している、大成功といっていい大会になった」 ボクシング人口の減少に加え、ボクシング興行が減り、魅力のあるカードが求められる時代において、画期的な大会となった。 WBA世界バンタム級スーパー、IBF同級王者の井上尚弥(大橋)が優勝したWBSSが盛り上がったように格闘技の世界では「誰が一番強いか?」を決めるトーナメントへの注目度は高い。 かつてA級トーナメントという大会が開かれており、山中氏も現役時代に参加、優勝を遂げて日本タイトル挑戦の足がかりを作ったことがある。その大会が、現在、最強挑戦者決定戦となっているが、ピラミッドのもう少し下の王者予備軍の層から選手を発掘するトーナメントとして、今大会が開催された意義は大きかっただろう。 プロ興行として、好マッチメイクを提供できると同時に選手はモチベーションを維持できるし、レベルアップするための経験を積めた。 「大事なのは、選手のこれから。まずは日本タイトルを取らないと始まらない。そこを目標にすればいい。僕一人では無理だが、2回、3回と大会を続けていきたい」と、今後のボクシング界に危機感を抱いている山中氏は、今大会の継続を熱望した。 主催「DANGAN」の瀬端氏は、「狙い通りの大会になったと思う。本当は、この試合の勝者にバンタムの世界ランカーと対戦するチャンスを与えようと考えていた。今回、引き分けなので、どうすべきか、これから考えます。再戦? それもいいかもしれない。いずれにしろゴッドレフトトーナメントは継続します。今度は、こちらが選手を選んでいく形になるかも」と約束した。 将来の世界王者につながる登竜門として山中杯が定着化していけば、ボクシング界復興の手助けになるのかもしれない。 ”黄金のバンタム”を象徴する山中杯の初代優勝者となった中嶋は、「目標は世界チャンピオンですが、とりあえず日本王者、東洋王者をとって世界王者に近づきたい。きょうの悔しさをバネに次は勝ちます」とリング上で誓った。中嶋のプロ戦績は、これで9戦8勝(7KO)1引き分け。ちなみに賞金100万円に高価なロレックスも着用することなく、奈良の両親に預けるそうだ。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)