優勝の中嶋一輝に100万円とロレックス……決勝はドローで優勢決着も意義深かった山中慎介バンタム級トーナメント
ボクシングの元WBC世界バンタム級王者、山中慎介氏がアンバサダーを務める冠大会「GOD’S LEFTバンタム級トーナメント」の決勝戦が28日、東京の後楽園ホールで中嶋一輝(26、大橋)と堤聖也(24、角海老宝石)の8回戦で争われ判定ドロー。大会規定によりジャッジがつけた優勢点により「2-1」で中嶋が初代優勝者となった。中嶋には賞金100万円と、山中氏がポケットマネーをはたいた同金額程度のロレックスの時計が贈呈された。元ユース王者や日本ランカーなど7人が参加、7月23日の1回戦、11月9日の準決勝とKO決着が続出した今大会は、王者予備軍の層にチャンスを与え好マッチメイクでファンの話題を集める意義ある試みとなった。山中氏は大会の継続を熱望。大会主催者「DANGAN」の瀬端幸男氏は「第二弾はやります」と山中杯の継続を約束した。将来、この大会が世界王者の登竜門として認知される日がくるのかもしれない。
堤の研究と中嶋の空回り
堤は中嶋の大砲を不発にする方法を研究していた。 「左右どちらでもできるけどサウスポーの方がやりやすいと思った」という堤は、中嶋と同じくサウスポースタイルを選択。激しい左右のフットワークで、中嶋に照準を定めさせず、右のリードブローからボディを絡めるコンビネーションを軸にヒット&アウエーを徹底した。 「狙いすぎて力んだ。早い回転でパンチを打てなかった」 中嶋は、独特のアップライトの構えから、ジリジリとプレスをかけるが、的を絞っているうちに時間が経過、手が出なくなった。 「悪いときの中嶋が出た」とは、大橋秀行会長。 「やりにくかった。打つ時に重心が低くて…サウスポーからの前の手も」 2試合連続1ラウンドKO勝利の大砲も打てなければ敵を破壊することはできない。 一方の堤は名門、九州学院高から平成国際大へ進み、アマ101戦のキャリアを持つ。ワタナベジム時代にはB級トーナメントを制して今大会では1回戦をシードされた。その経験はダテではなかった。 ただ中嶋陣営の松本好二トレーナーは、この展開を想定していた。 「右のジャブ、左のボディ!」 口酸っぱくアドバイスを送ったが、「あいつは一直線の性格で……」と、なかなか対応できなかった。 1ラウンドから4ラウンドまでは完全に堤のペース。 「ジャブでつめれると思ったが、ぐるぐる回られて、それを追う展開。焦った」 中嶋も不利を感知。一発逆転にかけていた。 スーツ姿でリングサイドから見ていた大橋会長も、たまらず「ボディだ!ボディ!」と声をあげ、5ラウンドには強烈な左ボディを数発、めりこませて堤の動きを封じかけた。だが「当たったパンチは続けよ」の鉄則を守れない。 6ラウンドには右フックのカウンターを浴び、中嶋が左の目の上をカットした。それでも、左のボディから右のフックのコンビネーションで堤にガードの上からでも確実にダメージを与えた。「だんだんリズムをつかまれた」とは、堤の試合後談話。 KOに結びつける決定打の距離は、最後までつかめなかったが、パンチ力というポテンシャルの違いが、後半、中嶋にポイントを運んだ。試合終了のゴングと同時に中嶋は「ドローかな」と不安を抱き、堤は、「いけたと思った」と勝利を確信していた。やりたいボクシングができた人と、できなかった人の差である。 ジャッジの一人が「77―75」で中嶋、2人が「76―76」のドローで決着はつかなかったが、大会規定により優勢点で白黒がつけられることになり「2-1」で中嶋が栄誉ある初代山中杯の優勝者となった。 中嶋が巻き返したラウンドも堤がペースを渡すまいと果敢に打ち込んだ見せ場があり筆者の優勢点は後者だったが、それほど僅差の勝負だった。 「ドローなんで悔しいです。反省しかありません」 優勝賞金100万円と高級腕時計のロレックスを山中氏から手渡されても中嶋に笑顔はない。 優勢点で敗れた堤も、「まだどこかに弱さがあったのかな。勝っていないんだから悔しい。ワタナベから角海老にジム移籍初試合……勝ちたかった」と嘆いた。