撮影/永田忠彦

都心から車で約1時間半。千葉市に隣接する八街市に“伝説の農家”と呼ばれる男がいる。レストラン関係者の間では知らぬものはいないという「エコファーム・アサノ」オーナーの浅野悦男さん(80歳)だ。 【写真】「富士山が見えないから切った」中国資本ホテルが隣人宅のヒノキを無断で伐採 前編『「俺がやってるのは『農業』じゃなくて『道楽』だよ」世界一の野菜畑が千葉にあった…！ミシュラン料理人が慕う80歳「伝説の農家」の挑戦』に続き、浅野さんの野菜作りの真髄に迫った。

パリコレのトレンドもチェック

浅野さんは取引を始める際、どういう料理にどんな野菜が必要なのか、シェフの考えを知るために十分な話し合いを重ねる。 「料理にもトレンドがあるからね。ネットでパリコレなんかをチェックしながら、このシェフなら次はどんな色の野菜を欲しがるかを予測しておくんだ。野菜はすぐに収穫できるわけじゃないから、前の年からあらかじめ種をまいておかなきゃならない」 さらには納屋を改造し、農園を訪れたシェフがとれたての野菜をすぐに調理できるよう、テストキッチンまで完備している。そんな姿勢が第一線の料理人に愛されるゆえんなのだろう。

世界一に輝いたシェフが教えを乞う

納屋を改造した作業小屋。見学に訪れたシェフが試食できるようキッチンを備える

「取引があるのはミシュランガイドで三つ星を獲得したフランス料理『レフェルヴェソンス』の生江史伸シェフをはじめ、とにかく探求心旺盛で研究熱心なシェフが多い」 ほかにも、フランス料理界の巨匠ピエール・ガニェール氏や世界のベストレストラン50で何度も世界一に輝いたコペンハーゲン「ノーマ」のレネ・レゼピ氏と、美食界で輝くスターシェフも浅野さんのもとを訪れたというから驚く。 そして浅野さん自身も、自分の野菜がどんな一皿になるのか知りたいとレストランに足を運ぶ。レゼピ氏が来日した際も、アリを使った料理などを実食して大いに刺激を受けた。その後に自身でアリを捕まえて食べ比べてみるほど、好奇心の塊なのだ。

若手シェフからも崇敬を集める

「オストリア レ テッレ」の大野裕介シェフ

イタリアで修業し、7年前に柏駅近くにオープンした「オステリア レ テッレ」も取引先のひとつ。「かねてより、店を出すなら浅野さんのつくった野菜を使いたいと思っていました。昔から憧れの存在だったんです」と大野裕介シェフ。 「野菜づくりを見学にいき『パリコレでトレンドを見よ』なんてアドバイスしてくれる農家さんなど、ほかにはいません」 浅野さんは自身でも、農園で穫れた果実や花を使い、新たな調味料を次々と考案し続けている。 「もう80歳になるし、今は婆さん(※妻の正江さんのこと)と二人きり。パートさんにでも手伝ってもらいたいと思うこともあるが、普通の農家じゃないから無理だろうね。うちで作っているのは珍しいものばかり。葉か、実か、花なのか、どれを収穫すればいいのか、把握できないと思うよ」 伝説の農家は、今なお歩みを止めない。 撮影/永田忠彦 【こちらも読む】『韓国が日本の至宝をまた「盗んだ」…!? 1房150万円「ルビーロマン」が流出するまでの一部始終』