「国境通信」アインの妻が妊娠 生まれてくる子供の未来は 川のむこうはミャンマー~軍と戦い続ける人々の記録#6
生まれてくる子供の国籍はどうなるのだろう?
「うわぁ・・・おめでとう!」そう口にしたものの、私は、100%素直な気持ちでは喜ぶことができなかった。それはやはり、彼らが直面している状況を意識せずにはいられなかったからだ。「生まれてくる子供の国籍はどうなるのだろう?」この疑問が頭をよぎった瞬間に、クーデター以降目にしてきた避難民の惨状、弾圧を受けて着の身着のままで国境まで逃れてきた家族、状況をよく呑み込めないまま大人に手を引かれて歩く不安そうな子供たちの姿などがフラッシュバックし、私はしばし固まった。 サンディは一緒にテーブルには座らずに、みんなに食事を取り分けたり、飲み物を用意したり、動き回っている。私の視線に気づいてこちらに顔を向けたので、「聞いたよ。おめでとう!そんなに動いて大丈夫なの?」と尋ねると、「もう安定期に入ったから大丈夫よ」と笑顔を見せた。そう言えば確かに、お腹のあたりが少し膨らんできている。私も過去に取材したことがある、ミャンマーの移民や貧困層への医療支援で実績のある総合診療所で検診などを受けている、と言うので、その点は少し安心した。
「ブラザー、心配しないで 私たちはとてもハッピーだ」
いろんなことが気になって仕方がない私の様子に気づいたのか、アインは穏やかな笑顔を浮かべながら「ブラザー、心配しないで。私たちはとてもハッピーだ」と言った。 話は逸れるが、いつからかアインは私のことを「ブラザー」と呼ぶようになった。知り合った当初は、私を支援する側の人間と認識していたからか、会話の語尾に「サー(Sir)」をつけていたのだが、私がそれはやめてくれと伝えると、ブラザーで定着した。 「心配するな」という言葉と、アインの笑顔を見て、私は勝手におろおろしてしまった自分が少し恥ずかしくなった。様々な困難があることは彼ら自身が一番わかっている。わかった上で、子供を育てる決断をしたのだ。私が今すべきことは、お腹の子が無事に生まれてきてくれることを願うだけだ。そう思いが至ると、逆に冷静にいろんなことを尋ねることができた。