サニーデイ・サービス 曽我部恵一「かけがえのないファンの人たちに歌うことが一番大事」
バンドは感動してもらえる音楽、ソロは僕のメモ
――2024年第1弾シングルとして5月に配信された最新曲「Pure Green」が、8月28日に7inchシングルとしてもリリースされました。疾走感のあるキラキラとしたロックンロールですが、曲を作ったきっかけは? コマーシャルのオファーをいただいて作りました。現在公開中のサントリー「鏡月Green」のWeb CMソングになっています。とくに曲に関してこういうふうにしてほしいというオーダーは一切なかったんですが、監督とお話しをして、コマーシャルの世界観をイメージして作りました。 ――B面には、メロウな新曲「Angel Eyes」が収録されていますね。 この曲は、3か月ぐらい前に、サニーデイでずっとレコーディングをしていたときに録っていたものなんです。 ――できたてホヤホヤですね! 今回の7inchシングルに入れたのは、組み合わせとして相性がよくてこの2曲に? そうですね。この曲はB面にいいかなと。ただ、この先また録り直して、アルバムに入れることもあるかもしれませんが、現時点での相性のいい2曲を入れました。ほかにもいっぱい曲を録ったなかのひとつです。 ――ではまだ未発表曲がいっぱいあるんですね。 アルバムを作ろうと思ってスタジオに入っていた時期にたくさん録っていました。いまはライブ活動やソロも忙しくて、少し作業を中断しているんですけど。 ――曲作りをして、レコーディングをして、バンドもソロもご多忙の曽我部さんですが、いつもどんなときに曲が生まれるものなんでしょうか? 夜にギターを弾いていると、ふっと歌詞を思いついたり、曲がひらめいたりすることが一番多いかな。昼は取材や打ち合わせをしていたり、夕方からはライブがあったり。外から帰るとどうしても夜になるので、夜に曲ができることが多いですね。でも、どんなときでも作りますよ。 たとえば高速で夜中に移動しているときに、サービスエリアでは眠くなって夜中に寝ることもあるんですけど、そこでギターを取り出して作ることも。いつ曲ができるかわからないから。 ――いつひらめくかわからない、ということですか? そう。だから、準備するといいますか。 ――曽我部さんの書く歌詞や詩が好きなんですが、もともと学生時代から文才があったのですか。 詩を書くのは好きではあるけど、昔はそんなに書いたことはなかったんです。バンドを始めてから本格的に書き始めて。でも最初は英語詞でしたし。作詞が面白いな、と思い始めたのは、『若者たち』を出した頃ぐらいからかな? ――面白いと感じた理由というと? メロディに英語のワードをはめこんでいくのではなく、全部日本語の歌詞でやってみると、僕たちが普段使う言葉で、いつもは話さない世界を表現することができたように感じて。幻想的だったりシュールだったりするようなものを日本語で、話し言葉とかでやってみると、意外と不思議に面白くなったんです。僕は音楽的に「はっぴいえんど」や松本隆さんの影響を受けているところもあって、自分なりの言葉を探し始めたんですよね。 ――そうだったのですね。曽我部さんはソロのリリースも盛んですが、8月にアルバム『HAZARD OF DUB』、9月4日に「永い夜」と、以前発表した楽曲が装いも新たに生まれ変わりました。さらに9月16日には、ライブアルバム 『センチメンタルな夏』『恋人たちが眠ったあとに唄う歌』を2作品同時リリースされています。 2023年の僕のアルバム『ハザードオブラブ』を、(ロックバンドの)「あらかじめ決められた恋人たちへ」の池永正二くんにダブミックスしてもらいました。ダブミックスというのはレゲエの手法なんですが、アルバム1枚をダブにしてまた再発売するのは、発祥の地ジャマイカではけっこうやることなんですよ。音楽の再生産、リサイクルがジャマイカでは昔から盛んで、レゲエの世界では一枚のアルバムから何枚でも作品を作ってしまうところが好きで、今回してもらいました。 ――「永い夜」は、2009年リリースの「曽我部恵一BAND」によるアルバム『ハピネス』に収録されていた、戦争についての曲です。 「永い夜」は、近年にウクライナやイスラエルとパレスチナのこともあって、ライブで演奏する機会が増えたんです。でも、音源バージョンはもう15年前の古いものしかなかったから、いまの気持ちを込めてライブで歌うように、いまの僕のテンションで録音しておきたくて。自分の勝手な記録なんです。 ――ご自身のなかで、ソロではメッセージ性があるものを作ろうとか、バンドではこう表現しようとか、意識の違いがあるのでしょうか? サニーデイは長いキャリアがあって、ずっと聴いてくださっている人もいますし、2020年発表の「春の風」という曲以降、10代や20代の若い世代で聴いてくれるかたも増えてきているので、そういう人たちにも最大限応えたいと思って活動しています。バンドは活動の仕方がある程度決まっていて、ライブをやるにしても、大勢の人がいるなかで演奏することのほうが多いから、できるだけみんなに感動してもらえる音楽を作りたい。 一方、ソロは僕のメモや習作みたいなものでも残したいなあと。だから未完成でも、ソロだったら出せるんです。サニーデイは未完成なものを記録として残していくつもりがあまりないんですよ。でもそれは、ソロという出口があるからかもしれないけど。僕名義で出ている曲は、世界中の誰かひとりの心にドンと刺さったらオッケー! みたいな気持ちで出しています。 ――曽我部さんのソロ曲もたくさんのかたの心に刺さっていると思いますが…。 いや、刺さってないですねえ、わかんないけど(笑)。まあ、ソロは本当に自分の個人的なものでもいいんですよ。音楽ってそういうところもあるから。大勢に聴かれた曲だから偉いとか、素晴らしいとかは一切ないので。でも、あまり知られていないような音楽でも、すごく自分の心には刺さるもの、感動をくれるものって、あるじゃないですか? そういう音楽がないとつまらないし、僕のソロはそういうことでもいいかなと。もちろんたくさんの人が聴いてくれたら、それはそれでうれしいですけどね。