会社に壊されない生き方(9)「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由
10年後に幸せな人生を送れているのか
会社に壊される前に逃れるためには、どうすれば良いのか。汐街さんは「判断力が衰える前に、今の職場に勤め続けてはたして10年後に幸せな人生を送れているのかどうか想像してみてはどうでしょうか。もしも、幸せな図が思い浮かばないようなら、その職場に勤め続ける価値はないのかもしれません」と話す。 たとえば汐街さんの場合、グラフィックデザイナーはなりたくてなった職業だった。当時勤めていた広告制作会社も、同業他社に比べると待遇は良い方だった。それでも、今改めて考えても「趣味の絵は描けず、友達と会えず、恋人も作れず、朝から晩までチラシを作っているのが望む人生なのかと問えば、ノーという答えが出ます」という。 家族のために過重労働でも耐えなければならない、という人にはこう勧める。「仕事が忙しすぎて家族と一緒に過ごす時間がない、話せない、顔も見れない、という状態が家族のためになるのかと考えてみてはどうでしょうか。また、過重労働の末に倒れてしまうと、社会復帰に時間がかかったり、場合によっては死んだりする可能性もあります。それが家族のためになるかといえば絶対に違います」 すでに疲れきって判断力が衰弱している人もいるかもしれない。「眠れないなど、身体的症状が出ているならまずは病院へ行くべきですが、過重労働の人は、病院に行く時間もない場合があります。その時は通勤途中でも良いので、その場に座ってそのまま動かない、という方法があります。誰かが救急車を呼んでくれますので強制的に休めます。私自身、1度実行しました」
過酷な労働環境に悩む人たちへ
書籍のもとになったのは、汐街さんが2016年10月にツイッター上で発表した漫画。過労自殺しかけたエピソードを8ページにわたって描いた。作成のきっかけは、広告代理店大手の電通の女性社員過労死事件だった。 この女性社員は過重労働が原因となり、2015年12月に自殺した。翌2016年9月に労災認定されて以降、大きな問題に。厚生労働省東京労働局は同社と同社社員を労働基準法違反の疑いで書類送検。当時の石井直社長は引責辞任する事態となった。 事件を知った時、「私も“死ぬくらいなら会社を辞めればいいのに”と思いましたが、同時に、これまでの経験からその社員が辞められない状況だったのもわかりました」と汐街さん。ツイッターの自らのフォロワーにも、過酷な労働環境に悩む若者がいた。自らの経験と考えを漫画に描いて伝えようと決意した。