ハブ取り囲むヤンバルクイナ 専門家「貴重な映像」 幼鳥に「危険回避」を伝授 ライバル共闘の珍しい場面も 沖縄
緊迫の数分間。約2メートルのハブと、国の天然記念物のヤンバルクイナ複数羽が対峙(たいじ)する。 7月に、沖縄で偶然とらえられた自然界の一場面。撮影された写真や動画を琉球新報のウェブサイトや、SNS、YouTubeで公開したところ「すごい」「ハラハラする」などの声のほか「専門家に聞いてみたい」など様々なコメントが寄せられた。実際に専門家に動画を見てもらったところ「うわー、これすごい」と驚きの声をあげ「クイナの子育てを捉えた貴重な映像」と語る。記録された鳴き声は「警戒音」で、今後のクイナの生育にも活用できる重要な映像だとした。 【実際の動画】「キョッ」と警戒音 目の前にハブ ヤンバルクイナ研究の第一人者でもある山階鳥類研究所(千葉県)の尾崎清明副所長は「今回の映像は、自然界でのヤンバルクイナと、天敵であるハブとの関係性を見る上で、非常に貴重な映像といえる」と説明。「キョッ、キョッ」と甲高い鳴き声を上げて、ハブをけん制する様子について「子別れする前の幼鳥が親鳥から危険回避のすべを学んでいる姿がみられる」と見解を示した。 映像に記録されたヤンバルクイナは全5羽。雄雌のつがい一組と、その子とみられる生後2~3カ月の幼鳥、ほかに成鳥2羽がハブの周囲で確認された。クイナの縄張りに侵入した大きなハブにクイナは「キョッ」と警戒音を発し、複数で周回りを囲み圧力をかけて、けん制する様子が撮影されている。行く手を遮られたハブは、村道を右往左往し、結局、元来たやぶへと退散した。 この時、警戒音を発したのは成鳥のみとみられる。映像を確認した尾崎氏は「ハブの危険性を親鳥が幼鳥に指南し、同時に警戒音を学ばせていたと考えられる」と説明する。 さらに今回の映像には「ライバルの共闘」という興味深い場面も。 通常、ヤンバルクイナの縄張りは、四方約400メートルとされていて、一つの縄張りにつがい一組と、親離れ前の幼鳥が生息する。今回、警戒音を聞き、他の縄張りのクイナも駆け付けたとみられ、自然界ではライバル関係にある別グループのクイナ同士が、共通の天敵ハブが現れたことで、縄張りを越えた共闘態勢で向き合う習性もうかがえるという。 沖縄本島北部だけに分布するヤンバルクイナの個体数は推定1500羽ほど。以前に比べ増加したが、回復したとはいえないという。山階鳥類研究所やNPOどうぶつたちの病院沖縄では、ヤンバルクイナの人工繁殖等を通し、絶滅回避の取り組みを行っている。今回の映像に記録された親鳥の警戒音などを生育施設で活用し、クイナのひなや幼鳥が自然界における危険回避能力が備わるよう役立てたいとしている。
琉球新報社