『パリピ孔明』森山未來×アヴちゃんの壮大な「今日も生きてる」 ギターが繋ぐ過去と未来
堅気の人間とは思えぬ強面なルックスながら、何気に面倒見が良く、実は三国志オタク。『パリピ孔明』(フジテレビ系)が始まって以来、そのギャップを体現する森山未來のライブハウス「BBラウンジ」のオーナー・小林があまりにもハマり役と話題になっている。小林の口癖でもある「お前、超孔明じゃん!」を聞くたび、「お前こそ、超小林じゃん!」と思わざるを得ないという人もいるだろう。11月15日に放送された第8話では、そんな小林のベールに包まれた過去が明らかとなった。 【写真】バーで俯く小林(森山未來)に酒を出す孔明(向井理) サマーソニア出場に向けた新曲作りに専念するため、しばらくアルバイトを休むことになった英子(上白石萌歌)。彼女が不在の中、BBラウンジを訪ねてくるのが、英子が憧れてやまないマリア・ディーゼル(アヴちゃん)だ。世界を股にかけるシンガーで、なおかつあの前園ケイジ(関口メンディー)との約束をほっぽり出してまでマリアがやってきた理由。それは、小林に会うためだった。驚くことに二人は旧知の仲だったのである。 なぜ、小林は今の今までそれを黙っていたのか。そこには小林がギターをやめることになったある出来事が関係していた。かつて英子のようにBBラウンジの前オーナー・吉永(谷中敦)から雇われ、アルバイトをしながら出演バンドのサポートギターを務めていた小林。そんな中、当時まだデビュー前だったマリアと運命的な出会いを果たす。孔明(向井理)が初めて英子の歌を聴いた時のように、マリアの歌声に一瞬にして心奪われた小林は「多くの人に届けたい」と思った。彼もマリアが才能の翼を大いに羽ばたかせることができる道を作る“軍師”になろうとしたのだ。 だが、小林はその思いの強さが仇となり方法を間違えた。当時はオーディション制だったサマーソニアの新人枠に食い込むため、主催者に顔が効く音楽プロデューサーに賄賂を手渡したのだ。しかし、それは詐欺で500万円という大金を騙し取られた挙句、それが主催者にバレてマリアのバンドはオーディションに参加すらできなくなった。小林が孔明に「英子を裏切るような真似はするんじゃねえ」と何度も念押ししたのは自身の後悔が元になっているのだろう。 さしずめ小林は孔明の命令に背いて大敗を喫した馬謖であり、「純粋に音楽だけで勝負したかった」と小林に背を向けたマリアは泣いて馬謖を斬った孔明。命までは取られなかった小林だが、その代わりに自ら危険と常に隣り合わせの裏稼業に就いた。いつ死んでもいい。そう思いながら生きていた小林がついにその時を迎えようとした瞬間、聴こえてきたのはマリアが歌う「I'm still alive today」。そのタイトル通り、生の歓びに満ちたマリアのエネルギッシュな歌声が小林を奮い立たせた。そして、命からがらBBラウンジにたどり着いた小林は再び吉永に拾われ、現在に至る。 2022年は、森山未來主演の映画『モテキ』でアヴちゃん率いるバンド・女王蜂が主題歌を担当して以来、10年ぶりに劇場アニメーション『犬王』で共演を果たし、室町時代に人々を熱狂させた能楽師・犬王をアヴちゃん、そのバディの琵琶法師・友魚を森山が演じた。その際も信頼で結ばれた彼らしか出せない空気感がスクリーンに漂っていたが、今回も骨太な芝居をともに構築した2人。その結果生まれた、コメディとは思えぬ映画さながらの壮大な小林とマリアの過去編に思わず引き込まれた。 それだけでも1話まるごと持ちそうなものを、贅沢にも今回は英子の過去も同時に盛り込まれる。家族を捨てて音楽を選んだ父親のせいで、母親(安藤裕子)から歌手になることを反対され、ギターだけを持って家を出た英子。だが、心のどこかではずっと会っていない母親のことが気がかりだった。そんな英子は久しぶりにあざらしのたまちゃんと孔明に聞き、気分転換に訪れた多摩川でたまたま赤兎馬カンフー(ELLY)と再会。彼の「穴掘ってんだ?」という口癖で英子は保育園児の頃に埋めたタイムカプセルの存在を思い出し、地元の京都までそれを掘り起こしにいく。そこから出てきたのは、「大きくなったら歌手になる!」という幼い英子の宣言と、それを応援する母親の声が録音されたカセットテープだった。 父親のこともあり、母親は英子の夢を純粋な気持ちで応援することができなくなったのかもしれない。自分の元から唯一の宝物である英子が去っていくのは耐えられなかったのだろう。けれど、英子の夢を応援してくれていた頃の気持ちが嘘だったわけではない。同じように、小林がマリアの横でギターを弾いていた頃の弾むような楽しさは見失っているだけでいつでも取り戻せるものだった。 〈あの頃は宝物だったのに今じゃもう違くて/自分で曇らせてごめんね〉 〈もう過去も未来も繋がってダメだったって良い事になる〉 英子と小林の歩んできた道のりが繋がり、新曲「Time Capsule」が完成する鮮やかな構成が見事だった第8話。もちろん、英子の隣で小林がギターを弾くところまで全て、今回もまた孔明の策略の範疇だ。作詞作曲を内澤崇仁(androp)、編曲をandropが担当した楽曲も爽やかで心地の良いメロディでますます英子のサマーソニア出場が楽しみになる。だが、あの日、自分との約束をすっぽかしたマリアがBBラウンジに訪れていたと知った前園の魔の手が再び忍び寄ろうとしていた。
苫とり子