火星で巨大な火山を新たに発見? 山麓には大量の氷が埋もれている可能性も
SETI研究所/アメリカ航空宇宙局(NASA)エイムズ研究センターのPascal Lee博士とメリーランド大学の大学院生Sourabh Shubhamさんは、火星の巨大な火山を新たに発見したとする研究成果を2024年3月にアメリカで開催された第55回月惑星科学会議にて発表しました。 火星の「ノクティス・ラビリントゥス(夜の迷宮)」を空から眺めてみよう 両氏によると、火山が見つかったのはマリネリス渓谷(Valles Marineris)の西に隣接するノクティス・ラビリントゥス(Noctis Labyrinthus)と呼ばれる地域です。正式名称はまだ決まっていないため、暫定的に「ノクティス山(Noctis Mons)」や「ノクティス火山(Noctis Volcano)」と呼ばれています。直径は450キロメートルで、火星最大の火山である直径約610キロメートルのオリンポス山には及ばないものの、タルシス三山として知られるアスクレウス山・パヴォニス山・アルシア山に匹敵する大きさ。標高は9022メートルです。
山容をよく留めているオリンポス山やタルシス三山とは異なり、ノクティス・ラビリントゥスの東部一帯は複数の谷が入り組んでいます。ノクティス山は火山活動や氷河による侵食作用が働く複雑な歴史を経てきたと考えられており、現在はその歴史を反映するかのように複雑な地形となっています。一見すると火山があるようには思えない場所ですが、両氏はノクティス山の南東部で多数見つかった特徴的な丘を火山活動に由来する「根なしコーン(rootless cones)」(※)と呼ばれる地形だと解釈しています。 ※…火山から噴出した物質が水や氷の豊富な部分を覆った時に水蒸気爆発や水蒸気の噴出が発生することで形成される、火口に似たクレーター状の地形。偽火口、偽クレーター。
また、LeeさんとShubhamさんは前年の月惑星科学会議にて火星研究所(Mars Institute)のJohn W. Schuttとともに、同じ地域で見つかった硫酸塩鉱物の堆積物を氷河の痕跡として報告しています。今回の研究では、この堆積物を主に構成する鉄ミョウバン石(jarosite)について、火山砕屑物が氷河を覆った時に氷と化学反応を起こしたことで形成されたと解釈されました。前述の“根なしコーン”でも同様の硫酸塩鉱物が見つかっていることから、ノクティス山の火山活動は地質学的なスケールで比較的最近まで続いており、山の南東部では5000平方キロメートルもの広範囲にわたる氷河氷が火山の噴出物に比較的薄く覆われた状態で今も埋もれている可能性があるとされています。 Leeさんは古代から長期間活動した火山が深く侵食されているとみられるこの地域について、時代とともに進化してきた火星を研究するための火山内部の調査やサンプル採取といった探査活動を地表と空から行うことができると言及しています。また、熱と水(氷)の相互作用が長期間続いた歴史があるとすれば生命の探索という観点からも興味深い上に、赤道付近の比較的浅い地下に氷が埋蔵されている可能性があることから、火星探査ミッションの候補地としても非常に魅力的だと語っています。