その修士号に価値はある? 修士号によって収入が上がる分野、下がる分野─それは男女間で大きく異なる
激増する修士号取得者
人々が修士号を目指す理由はさまざまだ。研究者の道に進むため、あるいは必要な資格を取得するために修士課程に進学する人もいれば、今後の人生でより良い収入を得たいという野心のために進学する人もいる。 【画像】その修士号に価値はある? 修士号によって収入が上がる分野、下がる分野 しかし、彼らが期待するように、修士号は本当に収入増加につながるのだろうか? この問いに、英誌「エコノミスト」が向き合った。 同誌によると、米国では2021年までの10年間で、学部生の数が15%減少した一方、大学院生の数は9%増加している。大きな要因のひとつは、修士課程進学者が増えていることだ。また、英国ではインドやナイジェリアから修士号を求めてやってくる人が増えており、この15年で修士課程進学者の数が60%も増加した。 修士号を目指す人が増えている理由のひとつは、科学技術分野の仕事が複雑化するのに伴い、雇用側がより高度な学位を求めるようになっていることだと、同誌は指摘する。 インフレのいま、学生側の費用負担はますます増えつつある。果たして、そこまでして修士課程に入る「価値」はあるのだろうか?
修士号でどれくらい収入は増えるのか、あるいは…
英シンクタンクの財政研究所(IFS)は、驚くべき事実を明らかにしている。彼らの調査から、英国の場合、修士号を持っている人とそうでない人が35歳までに稼ぐ金額は、ほとんど変わらないことがわかったのだ。 それどころか、なかには修士号を持っている人のほうが、持っていない人に比べて収入が低い分野もあると判明。IFSが社会・経済的に似た境遇にある35歳の英国人男性を調査したところ、政治学の修士号を持っている人は、政治学の学士号だけを取得して社会に出た人と比べて、収入が10%少なかった。歴史学の場合、この数字は20%、英文学にいたっては30%近くにのぼった。 なぜか? この調査に携わったIFSの研究員ジャック・ブリットンは、こうした分野で修士号を目指す人々が、収入よりも自分の興味に従ってキャリアを選ぶ傾向にあるからだとエコノミストに説明する。 だが、女性になると状況は異なる。この英国の調査で、修士号を取得すると収入が上がるのは、男性の場合は31分野中6分野だったのに対し、女性の場合は14分野だった。というのも、子供ができた場合、女性は男性に比べて仕事を辞めたりパートタイマーになったりする人が多いなか、修士号を持っている女性たちはこれに抗い、フルタイムで働き続ける傾向があるためだ。 米国では、このような調査に利用できるほど正確なデータが揃っていないのが現状だ。しかし、米シンクタンク「FREOPP」の元アナリスト、プレストン・クーパーは、平均的な修士課程の学生だった人が生涯で、修士号を持っていない人々よりも5万ドル(約770万円)以上多く稼ぐことはないだろうと試算している(この数字には、修士号取得のためにかかる費用や、修士課程に進まなかった場合、その間に稼げたであろう給与も考慮されている)。 英国でも米国でも、修士号で収入増が期待できる分野のひとつが工学だ。米紙「ニューヨーク・タイムズ」は2017年、ニューヨーク大学工学大学院の学生のうち8割がインドや中国、韓国、トルコからの留学生だと報じた。テクノロジー分野の急成長に伴い、米国の工学大学院には、高い費用を払ってでもこうした分野の修士号を取りたい人が、世界中から集まっている。 真面目に学問を追究すれば、その過程で得られるものは多い。しかし、経済的リターンだけを目的に修士号の取得を視野に入れている人は、自身の分野を踏まえて再考するのも良いかもしれない。
COURRiER Japon