なぜアメリカ人はアジア人を嫌悪するのか。映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』から透けて見える差別の構造と背景にある白人メンタリティ
「次世代のタランティーノ」の異名をとるアナ・リリ・アミリプール監督の新作映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』が話題だ。ヒロインが超能力者という設定なので、ありがちなサイキック・ホラーと勘違いしてしまいそうだが、実はまったく異なる見方ができる社会派ドラマでもある。映画の裏に隠されたメッセージとは……。 【※本記事では映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』の内容や結末に触れています。ご注意ください】 【画像】ストリッパーのボニー(右)を演じたのはケイト・ハドソン
表面的なストーリーの展開を追うと……
主人公は、12年間ニューオーリンズ郊外の精神病院に隔離されてきた韓国系の女性モナ・リザ(チョン・ジョンソ)。皆既月食で月が血のように赤いブラッドムーンになった夜、頭の中で思った通りに他人の行動を制御できる超能力を身につける。 長年虐待してきた看護師を操り、拘束衣をほどいて病院からの脱走に成功したモナ・リザは、街へ出て、ハンバーガーショップで出会ったストリッパー、ボニーの家に居候することになる。 11歳の息子チャーリーと暮らすシングルマザーのボニーは、モナ・リザの特殊能力を使い、ATMから現金を引き出した老人のお金を自分に渡させることに成功する。それ以降、効率よく現金を手に入れる道具としてモナ・リザを利用し始める。 精神病院患者脱走の報せを受けて捜査を開始した黒人のハロルド巡査は、「白人とアジア系の2人の女性から催眠術のようなものをかけられてお金を取られた」という被害者たちの証言から、そのアジア系女性が脱走患者に違いないと行方を追う。
裏側にあるもうひとつのストーリーとは?
まず、モナ・リザはなぜ12年間も精神病院に入れられていたのか? 10歳のときに「出生証明書を持たない政治的亡命者」としてアメリカへやってきた彼女だが、何度も「里親制度の利用資格」を申請、その都度「不承認」とされてきたことがファイルに記されている以外、詳しい事情は描かれていない。 だが、少なくとも彼女を「劣悪な環境から救い出さなくてはならない」と考えてくれるような人が周りにいなかったことは確かだ。看護師は「アジア人だからろくに英語も理解できないだろう」とばかりに彼女を「Stupid!」呼ばわりし、平気で虐待をする。その背景には、「なぜ自分たちが払っている税金でアジア人を世話しなくてはならないのか」という白人としての不満があるのかもしれないと想像させる。 雑貨屋の店員もストリップ・バーの客の白人男性たちも、みなモナ・リザに対する視線は冷ややか。ボニーがモナ・リザに宿を提供するのも、親切心からではなく、彼女から搾取しようとしているからだ。 その証拠に、ハロルド巡査に追いつめられると「現金強奪はモナ・リザの仕業で自分は関係ない」と言い繕い、「こんな女のことは知りもしない」と逃げてしまう(ただし、ボニーを演じるケイト・ハドソン自身はリベラル派で、日系4世のボーイフレンドとの間に一児をもうけている)。 背景には、アメリカ社会におけるアジア人蔑視があることが画面の端々から感じられるし、アジア系移民のせいで仕事を奪われ、社会的にも経済的にも不当に低いポジションに置かれている、という白人たちの意識もまた透けて見えるのだ。