【日本代表批評2】“基準”はあったのか? イラン戦で事故が起きた理由。「BoS理論」から考える問題の本質とは
日本代表はAFCアジアカップカタール2023でイラン代表に敗れ、ベスト8という結果に終わった。今大会における日本代表の戦いを批評する連載の第2回では、日本代表がロングボールに苦しんだ原因を掘り下げ、ボール非保持の局面における問題点を挙げる。(文:河岸貴)
●イラク代表が狙っていた「効果的なロングボール」 前回では、日本代表が苦戦した一因として心理的側面を挙げつつ、日本代表が苦しみ続けたロングボールに対応するための原則に触れました。ロングボールという点において、イラク代表は狙いが明確でした。イラク代表は対角を狙っています。例えば、先制点の場面がまさにそうです。 ロングボールが出た瞬間、目的地となるエリアにイラク代表の選手が3人います。板倉滉と菅原由勢が2対2の状況を作られ、その背後にもう1人。伊東純也が競りに行きますが、ボールに対して正面からアタックできない状況を考えると、最終ラインで3対2という数的不利を作られていました。 攻撃側からするとアタッキングサードの攻略の一つにダイアゴナルのまさにあのエリアを狙い、数的優位を作ることが挙げられます。BoS理論のボール保持編があれば、当然そこにも言及しているでしょう。事故のようにも見えますが、人数をかけられるとああいうことが起きます。意図的なロングボールが効果的であることが分かる一例でした。 敗戦の責任をだれか押し付けるのは良くないことですが、プレー自体の責任はピッチに立つ選手と監督(スタッフ)が負うべきです。普段、Jリーグとブンデスリーガを見ていると、日本はあまりにもミスに寛容だなと思うことがあります。1人ひとりの責任感の問題なのかもしれませんが、プレーの責任の所在ははっきりすべきでしょう。もちろん、これはプレーに対する批判であって、選手個人を攻撃するものではありません。 ●イラク代表戦の1失点目で挙げられる2つの問題 イラク代表戦の1失点目はすでに前回でも述べたように、右サイドからのダイアゴナルパスからです。そこから左サイドのポケットを使われて、クロスを上げられる。それをGK鈴木彩艶が弾き、相手FWが押し込んだ形です。 ここでは、板倉のクロスに対するアタックの弱さと、ゴール前に詰めた2人のイラク選手に対して数的優位の日本選手4人のゴールの守り方の2つが問題として挙げられます。確かにGKの予測不能なパンチングをドンピシャで合わせられたので、失点を防ぐことはノーチャンスかもしれません。ただ、気になるのは、そこに至る過程でPA内をスペースで守ろうとする傾向があることです。 2失点目の場面でもクロスに対して得点者をフリーにしてしまった伊藤洋輝の動きも指摘しなければなりません。拙著でも綴っていますが、ペナルティーエリア内ではマンツーマンを基本としています。 シュートするのはスペースではなく人であって、ペナルティーエリアでスペースを埋めてもシュートを防ぐことはできません。ワンタッチで決められる位置ではよりタイトに人をつかまえなければなりません。ゴールに近づけば近づくほど人へのオリエンテーションを強める。この意識がイラク戦での2失点から希薄に感じました。スペースにオリエンテェーションすると、どうしても危険なブラインドサイドが生まれる……。 もちろん、それ以前に長い距離のドリブルでPA内の侵入を許し、ここでも簡単にクロスを上げられたことは言うまでもないでしょう。また、人数が足りていても、いかに背走してゴールを守ることが難しいかも付け加えておきます。 イラン代表戦もイラク代表戦の課題を解消することができていませんでした。もちろん、板倉滉のパフォーマンスなど他にも要因はありますが、チームとして耐えきれなかったのは問題です。 ●イラン代表戦。なぜ耐えきれなかったのか…「事故が起きる確率を減らすためにできることはあった」 イラン代表は3日前のラウンド16で延長戦も含めた120分プレーし、PK戦までもつれ込む激戦を消化していました。日本代表と同じ中2日という条件でしたが、明らかにインテンシティは高くなかった。中には前半から体力切れでポジションに戻れていないような選手もいました。 前から行きたい中盤と前線と、なかなかプッシュアップできない最終ラインというのが前半のイラン代表側の問題でした。だからこそ久保建英は自由にボールを受けられたし、上田綺世もボールを収めていた。先制ゴール自体は相手GKのミスという要素もありましたが、守田英正の得点で1点を取って前半を終えた。ここまでの展開は日本代表としては悪くなかったはずです。 日本代表の最終ラインにラフなボールに弱いメンバーが並んでいたわけではありません。それでも苦戦したのは、前回述べたように簡単にロングボールを蹴らせてしまっていたからでしょう。また、イラク代表戦と同じようにダイアゴナルにボールを蹴られ、そこに人数を集められた。やられ方としては同じですね。 ダイアゴナル含めて、大きく逆サイドに振られて直接、または起点となって失点する形は、流れのなかからだけではなく、CK、FKを含めるとベトナム代表の初戦から数えると毎試合あります。イラン代表は当然そこを日本対策として考えていたでしょう。毎熊晟矢の背後でフリーを作られてクロスから危ないシーンがありました。 イラン代表戦では後半アディショナルタイムにPKを献上して、それが決勝点となりました。板倉と冨安の間にボールが落ち、板倉が相手を倒してしまいました。事故とは言いますが、ああいうミスはチームが浮ついていると起きる、必然の事故とも言えます。 非常にシンプルかつ当然ですが、毎熊の背後も含めて、どう対処すべきかをしっかりコミュニケーションをとることが必要でした。お互いが声かけ合いオーガナイズする。PA内をソリッドに守るための初歩中の初歩です。この試合の後半、解説者がもっと声を出すべきとコメントしていたように、映像からもゲーム中の混乱ぶりは見て取れた。ただし、この一因はベンチワークにあることは否定できない。さらに、個人的にはGKの不安定さも5試合8失点のDF陣に少なからず影響したと考えます。 ここまではボール非保持の局面における問題点を具体的に挙げてきましたが、次回はボール保持の局面に焦点を当てていきます。 (文:河岸貴)
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