東京五輪マラソン「札幌コース」は大通公園発着の周回コースでいいのか?
女子マラソン代表に内定しているふたりは北海道マラソンを経験している。前田穂南(天満屋)は一昨年の、鈴木亜由子(日本郵政グループ)は昨年のチャンピオンだ。しかし、男子のふたりは北海道マラソンの経験はない。 マラソングランドチャンピオンシップ(以下MGC)で男子マラソン代表内定を勝ち取った中村匠吾(富士通)は、公開練習時の取材で、「平坦なのか、上りがあるかで対策も変わってくる。コースが早く決まれば、それに対応できる戦略を練る時間が増えます。一日も早くコースが決まってほしい。コースの特徴を加味して準備していくだけです」と話していた。 中村はMGCで2度の試走を行い、「前日の試走でラスト800mに上り坂があったので、そこが間違いなくポイントになると考えていました」と、最後の上り坂でスパートして勝負を決めている。 もうひとりの男子マラソン代表内定者である服部勇馬(トヨタ自動車)も、東京五輪とほぼ同じコースだったMGCに向けて何度も試走を重ねてきた。苦手だった上り坂の走りを磨き、2位を確保している。 「僕自身は東京の舞台を目指してマラソンを始め、ここまでやってきた。東京で開催して欲しい気持ちが強いです。日本陸連、東京都、警察、ボランティアらの方々がMGCを成功させようと努力をしてくれました。いろんな方が東京五輪に向けて、準備、対策をしてきた。そういった思いをしっかり感じて欲しいし、声を聞いてもらいたい。札幌は走ったことがないコースになるので、地の利を生かすことは難しいのかなと思います」(服部) 日本陸連は東京五輪で戦える選手を選考すべく、本番の3年前からMGCシリーズを開始した。そして、男女合わせて4人に異例ともいえる早期内定を与えて、万全の準備を整えていくはずだった。しかし、まさかの札幌開催となり、MGCで本番とほぼ同じコース、暑さを経験したアドバンテージはなくなった。札幌はもうすぐ銀世界になる。本格的な試走ができるとしても春以降だ。 日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは、「日本人が得意な暑い方がいい」と日本陸連を通じてコース、レース時間などの希望を大会組織委員会に伝えているというが、選手たちの声はどこまで届いているのだろうか。 たとえば、暑さに強い中村からすれば、日陰コースではなく、夏の日差しがガンガン照り付けるコースの方が持ち味を発揮できる。 内定者4人がどんなコースを希望するのか。メダルを目指すためには起伏がある方がいいのかなど、大会組織委員会は内定者にヒアリングをしたのだろうか。選手の安全面を考えると、少しでも涼しいところで開催するという考えは間違いではないだろう。しかし、MGCで内定を勝ち取った選手へのリスペクトが全く感じられない。 2020年8月に札幌の街を駆け抜けるのは選手たちだ。日本陸連はマラソンの強化策をIOCに覆されたかたちになった。せめて新コースに内定者の意見を組み込むべきだろう。 「アスリートファースト」という言葉をいま一度思い出して、IOCやワールドアスレチックスの言いなりになるのではなく、日本の関係者には、ホスト国として毅然とした態度で新コースを提示していただきたいと思う。 (文責・酒井政人/スポーツライター)