日本社会は「全身全霊」を信仰しすぎている?「兼業」を経験した文芸評論家・三宅香帆と「ゆる言語学ラジオ」の水野太貴が語る働き方
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「大人になってから、仕事に追われて、読書や趣味が楽しめなくなった」という悩みを抱えてる人は少なくはないのではないか。かつて自らもこの悩みにぶちあたった、文芸評論家の三宅香帆氏は、労働と読書の歴史をひもときながらその根源を新刊『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で分析した。 【関連書籍】なぜ働いていると本が読めなくなるのか 本書で提起されている「全身全霊で働く」という労働観の問題をめぐって、三宅氏と人気YouTube番組「ゆる言語学ラジオ」の水野太貴氏が対談。会社員の傍ら執筆活動をしていた三宅氏と、編集者をしながらYouTuberとしても活躍する水野氏が、現代の「働き方」について考える。《前後編の後編》
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は半身で書いた?
水野 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んで面白かったのは、最終的に経済思想について書かれていることですね。三宅さんは「全身全霊」で生活することが求められることが多い日本社会に対して、「半身」で働く社会に変わるべきなのではないかと提言していますよね。 僕は最近、仕事に使ってないリソースをすべて「ゆる言語学ラジオ」に投下していて、プライベートを完全に捨てている(笑) だから、最後のほうは叱られている気がしました。そういう意味でも、僕にとっては非常にタイムリーな本でしたね。 三宅 ありがとうございます。 水野 それで、三宅さんに聞きたいんですが、本当にこの本は半身で書かれたんですか?(笑) すごい量の文献と、リサーチをしているじゃないですか。 三宅 「半身」だからこそ書けたんですよ。すくなくとも兼業時代の経験がないと、この題材は選ばなかった。 水野 なるほど。自己啓発書やビジネス書も多く引用されてますもんね、SHOWROOMを起業した前田裕二さんの『人生の勝算』とか。働いているときにはどういう本を読んでたんですか。 三宅 ウェブマーケティングの部にいたので、ビジネス書だと上司に勧められた統計学の本も読みましたし、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのマーケターだった森岡毅さんの本もよく読んでた。面白かったです。ちょっと自己啓発書っぽいジャンルだと、経済評論家の山崎元さんやライフネット生命創業者の出口治明さんの本も読みましたね。 水野 骨太なラインナップだ(笑) その経験もあるからこそ、書けたテーマだったんでしょうね。