本木雅弘、自信持ったことない「負の部分を面白がって味わいに」…主演映画のため7キロ減量、小泉今日子と32年ぶり共演
俳優の本木雅弘(58)が、主演映画「海の沈黙」(22日公開、若松節朗監督)で、脚本家の倉本聰氏(89)と初タッグを組んだ。倉本氏が構想に約60年かけたという集大成的な作品で、“真の美”を追い続ける画家役を演じる。倉本作品初参加の思いや、32年ぶりに共演した女優・小泉今日子(58)の魅力を「菩薩であり般若」と回想。さらに“真の自分”を受け入れることへの思いを語った。(奥津 友希乃) 【写真】本木雅弘、内田也哉子、樹木希林さん…貴重な家族ショット 記者は昨年6月、北海道・小樽市内で「海の沈黙」の撮影現場を取材した。倉本氏の「本木さんとずっとご一緒したくて、何十年ぶりのラブレターが届いた。感無量ですよ」と顔をほころばせた表情が忘れられない。その場では恐縮しきりの本木だったが、心の中では大きな重圧を抱えていた。 「倉本先生から『最後の作品になるかもしれない』とオファーを受けていたので。倉本作品新参者がそんな役目を背負わされたら…プレッシャーは想像つきますよね?(笑い)。画家役だけど私は全く絵心がないし。正真正銘、追い詰められる形でスタートしました」 本作撮影直前の23年にドラマで、がんにより53歳の若さで逝去したラグビー界のレジェンド・平尾誠二さん役を熱演。「海の沈黙」では、病魔にむしばまれる孤高の天才画家・津山竜次を演じ、「平尾さんの時は撮影中の3週間で10キロ痩せる必要があった。津山も病が深まる役だったので、平尾さんを演じた体重から少しだけ回復させて、撮影中にまた7キロ痩せていきました」と体形を徹底管理した。 倉本氏が11ページにわたり記した“津山の履歴書”も役づくりのガイドに。「普段の自分を消すというか、覆い隠すことが必要な役だなと。その上で“美とは何か”という物語の主題に、もがきながら向かっていきました」と不詳な人物像や、内に秘める静かな狂気を表現した。 元恋人役の小泉とは92年のフジテレビ系ドラマ「あなただけ見えない」以来、32年ぶりに共演。同時期にアイドルデビューし「花の82年組」として一世を風靡(ふうび)した同志だが、「最近は、私の妻の也哉子と小泉さんの付き合いの方が深いので。そこから漏れ聞こえてくる近況は知っていたけど、現実的には会っていなかった」と劇中同様の空白期間があった。 本作では、贋(がん)作事件をきっかけに津山と小泉演じるヒロインが数十年ぶりに再会する。「久しぶりに顔をのぞき込んでお互い、『いい具合に老けたなぁ』って思うわけじゃないですか(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに振り返る。 「小泉さんは若い頃から母性みたいなものを持っていたけど、それがより熟成されて『菩薩(ぼさつ)か!』って思うくらい。でも絶対に信念を曲げない強さって意味での『般若』じゃないけど、あらゆるものをかき立てる奥深い人相だなって改めて思いました。小泉さんとの関係性だから生み出せた再会のシーンでした」 取材中は鋭いまなざしで言葉を紡いだと思えば、「話逸(そ)れてます? 大丈夫かなあ」と手で顔を覆い隠す。演じた津山同様に、本木という人物もつかみどころがなく、底なしの魅力をまとっている。 どんな場所で生まれ育ったのかを聞けば「実家は埼玉の農家です」と意外な返答。それでも「武家を経て、15代続く米農家で一帯の地主でもあって。家には長屋門(武家屋敷や裕福な農家にある門)があって…」と、やはり斜め上を行く。 「その長屋門を通して先に広がる畑や空を眺めながらいつも『ああ、ここじゃない。どこか別の世界に行ってみたい』って夢見ていた。中学時代、当時の学園ドラマブームもあって『生徒のひとりにだったらなれるかも』と思い、いくつかのところに履歴書を送って急に道が開けたんです」 82年「シブがき隊」として鮮烈デビューし一躍、人気者に。当時を「自分の力というより、時代の風に乗った感覚」と回想する。私生活では95年に内田裕也さん、樹木希林さん夫妻の長女・也哉子さんと結婚。3人の子どもをもうけた。あまり生活感のない印象だったが、子どもの話になると、そのいとおしさは目尻のしわとなって表れた。 「家族は重たく尊い存在ですね。子育てはもちろん妻のワンオペにさせていられないから、私は本当に不器用ですけど懸命に参加しました。粗くてムラもあったと思いますけど、『思い通りにならない面白さ』を学ばせてもらいましたね」 数々の作品で唯一無二の存在感を放ち、俳優として円熟期を迎えているが、「自信を持ったことはなくて、いつも自分の中に言い訳とダメ出しがある」という。 「どうにも性格的に矛盾を抱えているタイプで。だけど結局、陰と陽、善と悪両方ないと成立しないんでしょうし、自分の中の悪玉善玉のバランスを変えて何とか生きている感覚です」 50歳を迎えた頃、樹木さんからかけられた「あなたもようやく、自分のほころびを役に生かせる年齢になったわね」という言葉が、道しるべになっている。 「自分の負の部分も個性と思って面白がってしまえば、味わいになるんでしょうね。そうやって引き受けた先に、どういう自分がいるのかが今の楽しみです」。再び手で顔を覆い隠し「でもきっと、面倒くさいおじいさんになってるんだろうなあ…」と苦笑する。 形容する言葉が見つからない不思議な魅力の根底にある、人間としての泥臭さや終わりのない疑問に少しだけ触れた気がした。 ◆本木 雅弘(もとき・まさひろ)1965年12月21日、埼玉県生まれ。58歳。81年、TBS系ドラマ「2年B組仙八先生」で俳優デビュー。88年に「シブがき隊」解散後、俳優として活躍。「おくりびと」(2008年)は米アカデミー賞外国語映画賞を受賞。主な出演作は「シコふんじゃった。」(92年報知映画賞主演男優賞)、「日本のいちばん長い日」(15年同助演男優賞)、NHK「麒麟がくる」(20年)など。長男・UTAはモデル、長女・内田伽羅は女優としても活動。
報知新聞社