JBL Classic Componentsからアナログプレーヤー「TT350」&ネットワークプレーヤー「MP350」をレビュー
JBL Classic Componentsは、音楽ファンのさまざまなニーズに応えながら、音質からデザイン、機能美まで追求し、さらにお求めやすい価格まで実現した注目のシリーズとなる。今回は、満を持して登場したレコードプレーヤーの「TT350」と、ネットワークプレーヤー「MP350」を中心にその魅力を解説する。 音質からデザイン、機能美まで洗練された再生機(生形三郎) JBL初のプリメインアンプとして1960年代中頃に誕生したSA600。かのパラゴンを手掛けたアーノルド・ウォルフ氏による美しいインダストリアル・デザインと、バート・ロカンシー氏による革新的パワーアンプ回路「Tサーキット」を搭載したストレートなサウンドの融合は、色褪せることがない至宝の銘機の一つとして今も語り継がれている。 2023年に登場したJBL Classic Componentsは、そんな伝説のエッセンスを取り込んだ筐体デザインが印象的な同社のエレクトロニクス・シリーズである。 筐体は、肉厚なアルミ削り出し素材によるフロントパネルと、リアル・ウォールナット突板仕上げのサイドパネルが共通して与えられ、美しいデザインが上質な存在感を放つ。昨今、ひとつのトレンドとしてクラシカルなデザインを昇華したスピーカーやコンポーネントの登場を確認できるが、本シリーズはまさにそれを代表する存在と言ってよいだろう。 先に登場したプリメインアンプ「SA750」と「SA550」及びCDプレーヤー「CD350」に加え、この度、レコードプレーヤー「TT350」とデジタルメディアプレーヤー「MP350」が登場。これで全てが出揃い、全方位のメディアへの完全対応を果たした格好となる。ここでは、新たに加わった両機の魅力に迫ってみよう。 アナログプレーヤー「TT350」は、ダイレクトドライブを採用するターンテーブルだ。 シンプルでソリッドなデザインのボディに、ユニバーサル・アームを搭載。プラッターはアルミダイキャスト製で、フォノイコライザーアンプは搭載せず純粋なプレーヤーに徹底。その分の音質的なアドバンテージも期待できる仕様だ。回転数は33・3及び45回転に対応。ユニバーサル・アーム仕様を活かしてのカートリッジ交換は勿論のこと、付属するオーディオテクニカのVM型「VM95E」のスタイラス交換によっても様々な針先によるサウンド・ヴァリエーションを楽しむことが可能となっている。 早速、プリメインの「SA550」を組み合わせ、同アンプ内蔵のフォノイコライザーでそのサウンドを確認してみる。スピーカーには、同社のL100 Classic MKⅡを接続した。 一聴して感じるのは、付帯感のないスッキリとした描写だ。ダイレクトドライブ方式ということだけに起因する訳では勿論無いはずだが、ギターやベースのピッキングにしろ、ヴォーカルのリヴァーブやスネアドラムの余韻にしろ、切れの良いスマートな音の出で立ちが快いのだ。また、スピーカーやアンプとのマッチングの高さもあってか、音楽全体にカラリとしたヌケの良さがあり、絶妙な相性を感じる。300mm大口径ウーファーを搭載するL100ならではの、エレクトリックベースやバスドラムの低音が画角いっぱいエネルギッシュに展開する様が、明快に伝わってくるのだ。 ジャズのピアノトリオも、やはりヌケの良さが際立っており、まるでシャープネスをほどよく高めた画のような明瞭さと、迫力豊かで推進力に満ちたサウンドを堪能させてくれる。オーケストラソースも、ホール残響が晴れやかに伸びわたり、美味である。総じて、シンプルに素性の良さを感じるプレーヤーで、付属カートリッジのスタイラス交換や、ヘッドシェルを外してのカートリッジ交換など、ピックアップの違いによるそれぞれの持ち味を瞭然と描き分けてくれるだろう。 同じくシンプルな薄型デザインが印象的なデジタルメディアプレーヤー「MP350」は、Amazon Music HDに加え、QobuzやRoon Ready(※2024年2月現在、認証待ち)にも対応しており、サブスクリプションサービス含めてネットワーク再生が全方位で楽しめるプレーヤーだ。新規開発のアプリも用意されており、質感の良いデザインを含めて税込み11万円という価格も注目に値する。 専用アプリを使ってミュージックサーバーから音楽ファイルを試聴すると、ダイナミックな低音再生で楽しませてくれる。とりわけ、ロックミュージックやポップスなどでは、エレクトリックベースやバスドラムの低音が重実した厚みで聴き手へと押し寄せ、カラリとした明朗な描写が爽快だ。 驚いたのはハイレゾファイルによるクラシックソースで、教会空間で録音された残響たっぷりのソロピアノが、軽やかなタッチで透明感溢れる余韻を伴って展開するさまが実に快かった。それらの明快な描写傾向は、本機のデジタル出力を用いてSA550内蔵DACへと接続した場合に一層強まる印象で、アナログ出力での使用のほか、ネットワーク・トランスポートとしても大いに活躍してくれるだろう。 以上、5モデルが集結したJBL Classic Componentsは、全方位へのメディアに対応する万能シリーズとして完成された。役割を兼務する一体型のコンポーネントも圧倒的に多い昨今、CD、レコード、ストリーミングがすべて独立したコンポとして揃う点が特筆に値する。しかも、それらがアイコニックで洗練されたデザインとサウンドを備えながら、10万円代の価格に抑えられている点も大注目のシリーズである。 その他のJBL Classic Componentsラインアップと組み合わせに使用したスピーカー 「MP350」と「TT350」を使いこなす! 《TT350を使いこなす》交換針を挿げ替えることでどんどん音を変化させられる(炭山アキラ) JBLのアナログプレーヤーTT350を深掘りしてみる。まずデフォルトで聴こう。クラシックは大スケールで華やかに、しかし格調高いオケを聴かせる。強弱、緩急の表現も巧みで、かなり器は大きい。ジャズは音が濃く、吹っ飛んでくるような迫力と、奏者が目配せし合いながら間合いを図るさまを表現する。 若干中域重視ではあるが、魂を強く感じさせるこの音作りは成功であろう。ポップスは僅かにビートが後ノリだが、米国ポップスだけにむしろそっちが正解か。声はよく伸びるが、僅かに荒さも感じさせる。 本機の付属カートリッジは接合楕円針を装着したオーディオテクニカの「AT-VM95E」だ。これは交換針を挿げ替えることでどんどん音を変化させられるから、早速ここから実験しよう。 まずは同じ楕円でも無垢針AT-VMN95Eを試す。クラシックは一気に音像へ若干まとわりついていたガサつきが消え、音場の見晴らしが劇的に向上、音像もスッキリ端正なたたずまいとなった。ジャズは中域のエネルギーがグッと張っていたのがよりフラットへ近くなる。ドラムスのアタックがスパっとハイスピードに切れ上がり、サックスやピアノの付帯音も消失した。ポップスはビートが少し前ノリ側へ寄り、いつも聴いているテンポ感に近くなった。歌唱もより耳へ障る成分が減少し、一気に品位を上げる。 JBL Classic Componentsには2機種のプリメインアンプがあって、価格も作りもかなり異なる。そこでアンプをSA550からSA750へ交替させてみた。クラシックはさらに音場が広がり、大ホールの空気容量をたっぷりと感じさせる。楽員を1人ずつ丹念に描写するような表現が素晴らしい。 ジャズは4人の演奏がクールに切れ上がる。汗だくになりながらセッション合戦をやっているような風情のSA550、余裕たっぷりに4人が空間を共有している印象のSA750という感じだ。ポップスはピシリと端正で歌姫の音像もピンポイントに決まるが、SA550の少々荒いが楽しい音も捨て難い。クラス違いの両者だが、音の好みも加味して選びたい。 ここでシバタ針「AT-VMN95SH」を試す。クラシックは超ワイドレンジかつ一閃の強音や弱音の消え際が美しく、S/Nも高い。ジャズは音が太く逞しくなり、大スケールかつ上質だ。ポップスも同様で、ドスッと肉太ながら軽やかな演奏が素晴らしい。 ところでSA750はMCにも対応しているので、まずわが絶対リファレンスのオーディオテクニカ「AT33PTG/II」を装着した。クラシックはたっぷりと潤いを含んだ空気の中を妙なる和音が満たすといった感じだ。ジャズは軽いピラミッド型で、どっしりしているが音が重くならない。ポップスはパワフルなドラムスに歌姫のシャウトが乗り、やや渋めの演奏を聴かせる。 最後にデノン「DL-103」を装着する。クラシックは帯域バランスが整い、音像がクッキリ濃厚に表現されるようになる。ジャズも濃厚かつパワフル、サックスはよく伸び、ピアノは肉太の一筆書きを思わせるタッチを聴かせる。ポップスは豪快で力強く、歌姫のシャウトには熱い血が通う。MMで聴いたSA750とは別物のような厚み、豪快さが心を打った。 《MP350を使いこなす》ネットオーディオに求められる音質や機能を網羅する(土方久明) 「MP350」の音質と使い勝手をチェックした。まず目を惹くのはデザインだ。オーディオ機器は過去の名作のデザインが新作に反映されることも多いが、本機は1960年代のJBL SA600アンプにインスピレーションを受けたモダンアンティークな意図を持つ。 再生ソースは、サブスクがAmazon Music HD、Qobuz、TIDAL Connect、Spotify Connectに対応。デジタル楽曲ファイルはUPnPによるNASからのネットワーク再生と本体に装着したUSBメモリ/HDDからの再生も行える。そのほかインターネットラジオや、パソコン・スマホとワイヤレスで接続できるAirPlay2/Google Clomecastに対応するなど、ネットワークプレーヤーにおける基本的なトレンドは網羅。 大きなポイントとしては、スマホ/タブレットにインストールする独自アプリ「JBL Premium Audio」が利用できること。汎用アプリを探す必要もなく、さらに専用リモコンも付属している。 同シリーズに属すプリメインアンプ「SA550」と組み合わせてスピーカー「L100 Classic MKⅡ」を駆動した。スマホに表示された操作アプリのアイコンがJBLロゴでカッコ良い。アプリを立ち上げてメイン画面を確認すると、ストリーミングサービスやUPnP(ネットワーク再生)機能などのソースが見やすく並んでいる。スマホとタブレットの画面UIも統一されており、シンプルに使いやすさを追求している。画面推移など細部の仕上がりにはアップデートを期待したいところもあるが、レスポンスは良い。 Amazon Musicを選択し、ノラ・ジョーンズと日本語入力で検索して、配信されたばかりの「Running」(96kHz/24bit)を再生した。音質は実に良好だ。サウンドキャラクターとして中音域から高音域に温度感と色彩があり、チャーミングな彼女の声質を表現。 クラシックの協奏曲、アンネ・ゾフィー・ムター『ブラームス:ダブルコンチェルト』は、チェロとヴァイオリンのディテール表現が立体的で、音楽のジャンルを問わずに対応できる音だ。ここでアンプを上位モデルのSA750にチェンジした。スピーカーの制動力が1段階上がり、ディテールがよりシャープになる。良い意味での密度とまろやかさがあるSA550とは甲乙つけ難い音で、L100 Classic MKIIと音質的なマッチングは良い。 最後はジャズの名盤、クリフォード・ブラウン『メモリアル・アルバム』を聴いたが、ハードバップジャズに求められる勢いある音で、やはりJBLの組み合わせで聴くジャズは最高だと認識した次第。 ハイレゾ/ストリーミングがより身近になってきたが、ネットワークオーディオに求められる音質、安定動作、対応ソースを満たし、Amazon Music HDが楽しめるMP350はC/Pが高いモデルだということは間違いなく、購入後の満足感は確かなものがある。 (提供:ハーマンマンインターナショナル株式会社) 本記事は『季刊・Audio Accessory vol.192』からの転載です
生形三郎/炭山アキラ/土方久明