<わたしたちと音楽 Vol.41>児玉雨子 アイドルやアニメのために綴る言葉に込める思い
幼い頃に何気なく聴いていた曲が、時を経て心の奥に届くこともある
――児玉さんが書くもの、例えばアイドルやアニメの楽曲は、こういうインタビュー記事よりも幅広く多くの人に届くと思うんです。「この文章を読もう」と思わずとも、日常の中で耳に入ってくる言葉だったりするじゃないですか。そういう特性のある“歌詞”を通して、伝えられることに期待はしていますか? 児玉:初めて歌詞が耳に届いたそのときに心が揺れてくれたらいいなという気持ちはもちろんあるけれど、今聴いてくれている小学生の子が、高校生や大学生になって、ふと「あの曲、実は良い曲だったな」って思い出してくれればいいとも思います。自分自身、子供の頃に単に耳当たりが良いから聴いていたとか、みんなが聴いてるから聴いていたという曲を、大人になってから聴き直して、噛み締めた経験が幾度もあるんですよね。今現在の救済にはなっていなくても、いつか誰かの好きな歌になればいい。もちろん、自分が発信したものが今すぐ世の中に広くリーチしてほしいって気持ちもあるんですけど、5年後くらいに急に火がつくこともあるのも知っている。おかげさまでそれを知ることができるくらい仕事を続けられてきたから、もう少し世の中を信用しようという気持ちになりました。 ――作詞家としてのデビューが早かった児玉さんは、“若手女性作詞家”や“美人作詞家”と冠をつけて語られることも多かったかと思うのですが、そのことについてはどう感じていましたか。 児玉:今はもうそれらに怒るというわけではなく、わきまえて黙るでもなく、「はいはい、また出た」と思ってますね。言われるたびに「まだ、それ言ってるんですか。いつの時代ですか?」と釘を指すように意識はしてきましたが。最近はもうそんなこと言うひとも、めずらしい気がします。
業界の“ネガティヴマッチョ”精神へのオリジナルな反抗方法
――このインタビューを続けてきて、女性がエンタテイメント業界で長く活躍するためには、女性自身の問題だけではなく、社会の眼差しや構造も含めて乗り越えなくてはいけない年齢の壁があるのを感じました。経験を重ねることよりも若さが重要視される価値基準や、妊娠・出産を含む体調の変化に対応しづらい労働環境が関係していると思うのですが、児玉さんは、女性がエンタテイメント業界で活躍しやすくなるにはどんなことが必要だと思いますか。 児玉:いろいろなことをやるのは意識していますね。業界ってひと言で括れないくらい細分化しているじゃないですか。私がやっているものはポップカルチャー的なジャンルが多いけれど、たとえばアイドルだけじゃなく、アニソン、VTuberのお話も積極的に取り組んでいて、ポップカルチャーの中でどんどん越境しています。「ひとつの場所にとどまらない」という姿を見せることは、この業界を働きやすい環境にする一つになる気がするから。あとはスケジュールもかなり気をつけていて、急すぎるものは受けない。若くてやる気がある人を使い潰しているのは、社会全体の問題ですよね。 ――高度成長期の“寝ずに頑張る”の精神が、エンタテイメントの業界ではまだ受け継がれているような印象もあります。 児玉:学生の時に「女が何かものを書いたり作ったりしていて、幸せなんて望めるわけない」って言われたりもしました。未だにそういう考えを引きずっている側面があるのを感じますね。いかに自分の心身をセルフネグレクトしたかを自慢するものを、私は“ネガティヴマッチョ”って呼んでいます。当時はそれに対抗する語彙を持っていなかったけど、もし私が体を壊したとして、無茶頼んできた人たちが身代わりになってくれるわけじゃない。無理なスケジュールには「ごめんなさい、できません」とお断りして、ジムと睡眠の時間はかなり確保しています。
プロフィール
児玉雨子 作詞家、作家。アンジュルム、Juice=Juice、つばきファクトリーなどハロー!プロジェクト関係を筆頭とするアイドルや、声優、テレビアニメ主題歌やキャラクターソングを中心に、VTuberから近田春夫まで幅広く歌詞を提供。小説やエッセイ執筆も行う。著書に『誰にも奪われたくない/凸撃』(河出書房新社)、『##NAME##』(河出書房新社)、『江戸POP道中文字栗毛』(集英社)がある。
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