【MLB】 タイガースはいかにアストロズに下剋上したのか 名将ヒンチ監督の大胆な投手起用が結実
日本時間10月3日、ア・リーグの第6シード・タイガースは、第3シード・アストロズをワイルドカードシリーズで撃破。アストロズの8年連続優勝決定シリーズ進出の望みを絶ち、第2シード・ガーディアンズが待つ地区シリーズへとコマを進めた。8月12日時点では借金8、プレーオフ圏内まで10ゲーム差、プレーオフ進出確率0.2%という状況からプレーオフ進出を成し遂げ、リーグ優勝本命のアストロズを撃破した“下剋上”を支えるのは、“ピッチング・カオス”と呼ばれる投手運用だ。 【動画】タイガースがアストロズを倒して地区シリーズへ! “ピッチング・カオス”を説明するならば、リリーフ投手をフル活用し、オープナーやブルペンデーを多用する柔軟な投手起用法ということになるだろう。タイガースは7月末のトレードデッドラインでは売り手に回り、先発投手のジャック・フラハティをドジャースにトレード放出。それ以降、チームには正規の先発投手が、投手三冠に輝いたタリック・スクーバルしかほぼいないという状況になった。 オープナーやブルペンデーを活用する球団は他にも多くあった。しかし、タイガースはシーズン最後の2ヶ月間でほとんどそれに頼り、目覚ましい成果を挙げた点で他とは一線を画すだろう。タイガースのブルペン陣は後半戦MLBダントツの345イニングを消化しながら、防御率3.00と優秀な数字を残した。一方でタイガースの先発投手陣が後半戦に投じたイニング数は242.1回でMLB最小ながら、防御率は3.32でMLB2位。先発・ブルペントータルで後半戦MLB1位の防御率3.31を記録しているのだ。対して、トレードで放出したフラハティらが健在だった前半戦のチーム防御率はMLB14位の3.97に過ぎない。 この斬新な投手運用を可能にしているのは、名将AJ・ヒンチ監督の手腕だ。たいてい投手は先発にせよ、リリーフにせよ、固定された役割で起用されることを望むもの。しかし、タイガース投手陣はヒンチ監督による“何でもあり”の起用を受け入れている。第1戦ではセーブを挙げ、第2戦では5回一死からアストロズの上位打線5人を抑えた26歳のボー・ブリスキはこう語った。「いつ呼ばれるか分からないからカオスになることはあります。だから、とにかく準備を整えるようにしています。私がいつも自分に言い聞かせているのは、『自分の名前が呼ばれたのなら、それには理由があり、自分がその状況にふさわしい投手だと信じなければならない。登板して自分の仕事をする、それだけです。気負いすぎず、自分に代わる次の投手と(ヒンチ監督の)計画を信頼しよう』ということです。これはただのランダムではないんです。」 ワイルドカードシリーズにおけるヒンチ監督の継投プランは、アストロズの2番カイル・タッカーと3番ヨーダン・アルバレスという2人の左打者を中心に組み立てられた。彼らの1巡目には、第1戦では8回に登板したセットアップのタイラー・ホートンをオープナーとして起用。このように徹底して左腕を当て続け、シリーズ通してタッカーとアルバレスは合わせて2打席しか右腕と対戦することはなく、14打数2安打と沈黙した。また、常にアストロズ打線の目先を変えるため、第2戦では7投手を起用し、誰も5アウト以上取ることはなかった。 ヒンチ監督は2015年から2019年まではアストロズの監督として、現在のアストロズ王朝の黎明期を支えた。しかし、2020年シーズン前に持ち上がったサイン盗み疑惑で1年間の出場停止処分を受けてしまう。ヒンチはサイン盗みに反対の立場であったというが、処分明けを待たずしてアストロズから解雇された。当時は「二度と監督できるか分からない」と思っていたというヒンチに対し、処分明けの2021年にタイガースが手を差し伸べた。しかし、再建中のタイガースでは就任当初から3年連続負け越しを経験。それでも、今季ついに自らの手腕でタイガースをプレーオフに導き、古巣アストロズに対してアップセットを完遂してみせた。