夫の休みは3ヶ月で2日…部活動顧問の妻の苦悩「夫はいないのと一緒」
教育関係者の間で広がった“部活未亡人”、今なお好転しない3つの理由
今回の女性のようなケースは、まさに「部活未亡人」であると名古屋大学で教育学を研究する内田良教授は指摘する。※差別的な表現を含む言葉であるが、ここではあえてそのまま使わせていただきたい。 「部活未亡人」とは、夫である教員が部活動指導に多くの時間を使うことで、夫がいなくなったような状態に陥った妻を示す言葉だ。大きすぎる部活動指導の負担のしわ寄せが家庭に及ぶことを問題視するために使われてきた言葉で、内田教授によると、少なくとも1990年代には存在していたという。 長きに渡り問題視されてきている一方で、由利さんのように苦しむ家族が後を絶たないのはなぜだろうか。 その原因として、内田教授は、 ①部活動が勤務という枠組みではなく「自主的な活動」とされていること ②法律により教員には残業代が支払われない仕組みとなっていること ③時間やコストへの意識が低い“聖職者”教員の文化 以上の3点を指摘している。
上限規定なし・残業代なしの部活動指導、それでも“聖職者”教員は頑張り続ける…
内田教授が挙げた3点について、詳しく解説する。 ①部活動は「自主的な活動」 文科省によると、部活動は教育の一環とされつつも「生徒の自主的、自発的な参加により行われるもの」と定められている。これは生徒に限った話ではなく、教員にとっての部活動も「自主的な活動」なので、一般的な「労働時間」に換算されるものではない。そのため、拘束力をもった制度や上限規定が設定されておらず、長時間労働の実態があったとしても、大きな問題として上がってこなかった側面があるという。 ②教員には“残業代”が存在しない 教員の労働条件や給料は、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)と呼ばれる法律で定められている。給特法によると、教育職員は、原則的に時間外勤務手当や休日勤務を支給されない代わりに、給料の月額の4%に相当する額を「教職調整額」として支給するとされている。つまり、平日に定時を超えて部活動指導してもいわゆる残業代は1円も支払われない。土日の指導には、4時間以上で3000円の部活動手当が支払われるが、最低賃金以下の水準だ。 コストのかからないものに規制はされづらい。民間企業であれば従業員の残業時間が長くなればなるほど人件費がかさむため、残業時間を減らすための業務改善などが積極的に行われるが、教員の場合はそうした抑止力が働かないのである。 ③多くの教員にとって理想とされる“聖職者”としての教員像 こうした制度上の課題があるのであれば、「部活動指導をしなければいいのでは」と言いたくなる人もいるだろう。由利さんの夫のように、すすんで部活動指導を引き受ける教員ばかりではなく、2022年に栃木県が県内の中学校教員らに行った調査では、85%を超える教員が部活動負担について「大きい」と感じていると回答している。