『ブギウギ』黒崎煌代に重なる水上恒司のはにかんだ表情 スズ子の心を満たす“最愛の人”に
スズ子(趣里)と村山愛助(水上恒司)が鮮烈な出会いを果たした『ブギウギ』(NHK総合)第51話。後にスズ子にとって“最愛の人”となる彼は、忘れられない“最愛の弟”にどこか似ていた。 【写真】水上恒司インタビュー撮り下ろしカット(写真多数) 真珠湾攻撃で指揮をとった山本五十六が殉職し、国民の報復感情が高まっていた頃。変わらず地方巡業を続ける「福来スズ子とその楽団」は、汽車で愛知の劇場に向かっていた。東京では敵性歌手の烙印を押され、公演を打つことができなかったスズ子たち。しかし、地方にはまだまだスズ子の歌を必要とする人たちが大勢いた。 首を長くして待っていた地元の人々に大きな拍手と歓声とともに迎えられ、スズ子は舞台に立つ。劇場といえども公民館のような小さい箱だが、スズ子には全くもって関係ない。善一(草彅剛)から餞別として贈られた「アイレ可愛や」を歌うその小柄な身体からは、自分の歌を届けられる大きな歓びが溢れ出ている。観客もスズ子の歌声に酔いしれ、そこには戦時中とは思えない平和な時間が流れていた。ここ数週間、苦しい展開が続いただけになんだかホッとする光景だ。 スズ子もまた、想像以上の盛り上がりに心を撫で下ろしながら楽屋に戻る。そこへ興行主に連れられてやってきたのが愛助だ。スズ子の大ファンという彼は恥ずかしそうにひとしきりモジモジした後、軽く会釈をしてすぐに去っていったが、なぜか一行の宿泊先に再び姿を現す。 運悪く小夜(富田望生)が宿泊費を探していたところにやってきたばかりに盗人扱いされてしまう愛助。そんな彼をスズ子はお詫びとして夕飯に誘うが、本当のところはもっと話してみたかったのだろう。なぜなら、スズ子には愛助が一瞬、弟の六郎(黒崎煌代)に見えたのだった。 話を聞くに愛助は大阪出身で、現在は東京の大学に通う20歳の学生。六郎よりも少しばかり若いが、年齢以上に落ち着いた雰囲気がある。改めて見れば、六郎とは似ても似つかないのに、たしかに初めてスズ子と目が合った瞬間だけは重なって見えた。少しはにかんだ愛助の表情が、「姉やん!」と呼ぶあどけない笑顔の六郎に。 夕飯を愛助と一緒に囲むスズ子はいつもよりはしゃいでいる印象も受ける。一度は歌えない状況に陥りながらも、りつ子(菊地凛子)との合同コンサートで見た六郎の幻に背中を押されて自分を取り戻したスズ子。だが、大切な人の死は乗り越えたように思えても、ふとした瞬間にとてつもない寂しさが襲ってくるもの。そんな中で、六郎と近い年齢の愛助が息災で、目の前にいてくれることだけでもスズ子にとっては嬉しいのではないだろうか。唯一の肉親である梅吉(柳葉敏郎)も遠く離れた香川に行ってしまった今、愛助の存在がスズ子と視聴者の心にぽっかりと空いた心の穴を埋めてくれるような気がした。 笠置シヅ子さんにとっても、愛助のモデルと思われる吉本穎右さんとの出会いは衝撃的だったようで、自伝『歌う自画像:私のブギウギ傳記』(北斗出版社)の中で「美眉秀麗な貴公子然たるタイプに圧倒されて、ちょっと言葉が出ませんでした」と記している。「ジェームス・スチュアートのように端麗な近代感に溢れていました」とも。そんな風に一目で穎右さんに好感を持ったシズ子さんだったが、のちに年齢を聞いて我に返っている。当時、スズ子さんは29歳で、穎右さんは9歳も年下だった。 スズ子も同じように愛助の年齢に驚くが、愛助はスズ子の大ファンであるためか、その視線は熱を帯びている。今週のタイトルは「ワテより十も下や」 と分かりやすく、年齢差に阻まれる2人の恋が描かれるのだろう。今はまだ弟のような愛助がスズ子にとって最愛の人となっていく過程を見届けたい。
苫とり子