パリオリンピック卓球 初戦圧勝の裏に見えた張本智和が貫く独自の勝負哲学「ずっと卓球は続くので」「切り替えようと思わない」
【何十年も忘れられない悔しさ】 その言葉は、実にロジカル(論理的)だ。もっとも、そう語るのは、淡白な性格だからではない。それだけ巨大な感情が動いてしまうのだ。 「こうやって喋りながらでも、ダブルスの結果は悔しいです」 張本は、心情を隠さずに言う。 「"今日はミックスの準決勝、メダル決定戦だったな"と思いながらプレーしていましたから。しばらく、何十年も忘れられない悔しさだと思います。東京五輪のシングルスの悔しさ(日程変更などのトラブルもあり、ベスト16敗退)も今でも忘れていないですし。1日、2日で忘れられるわけがない(苦笑)。ルームメイトの戸上(隼輔)、篠塚(大登)に、負けた愚痴を聞いてもらい、あっちは聞いていないと思いますけど(笑)、"うんうん"と頷いてもらえて。吐き出すことに意味はないけど、気持ちは楽になりますね。負けた事実を受け入れて、シングルスに負けたら団体があるし、団体に負けたら、次のオリンピック。ずっと卓球は続くので」 ひとつの悟りである。 常に勝利をデザインしながらも、一瞬、一瞬を楽しめている。たとえばこの日の第4ゲームの際、フランス人選手のプレーに会場が大歓声に包まれた時だった。 「董(崎岷コーチ)さんにも『うるさい』ってぼやきました(笑)。(調子を崩して)最悪、あのゲームを取られても、まくられる状況ではないなって。これも含めてオリンピックだな、って思いました。ふだんではありえない歓声で、勝ったからよかったですけど、負けたら地獄でした(苦笑)。この歓声をできるだけ楽しめるように、プレーしたいです」 2回戦で対戦するイランのノシャド・アラミヤンは、アレグロに続く左利きだ。バックハンドが主戦で、独特のリズムを持つ。これが3度目の対戦で、過去2回は張本が勝利している。 「前回のアジア競技大会ではギリギリで勝って、今年のザグレブの大会でもデュースから逆転しました。特殊な戦い方だけに、はまってしまうと、中国に勝つ時もある。ただ、自分のプレーができれば優勢だと思っています。勝てる、とは言わないですが、過去2回勝っているので、プレーを見返してよかった点、悪かった点を分析し、改善しながら......。結局、その繰り返しだと思います」
その鍛錬こそ、彼の人生そのものなのだろう。 「混合は、あの日の相手がよすぎただけで、"自分のプレーは悪くなかった"と分析しています。だからこそ、疑心暗鬼にならず、"自分は強いんだ"という思いで今日もプレーできました。スコアが2-0になった時から、相手の動きもよく見えて、プレッシャーも少しずつ減り、打てるコースに散らして。"1回の負けでこの3年間は崩れない"という気持ちで......」 張本だけの戦いのロジックで、卓球人生を突き進む。7月31日に行なわれるシングルス2回戦もそのプロセスのひとつだ。
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki