【World WCR 第3戦】M.エレーラとA.カラスコが優勝を分け合いチャンピオン争い激化! 平野ルナは未知のサーキットで奮闘
2024年8月9日から11日にかけて、ポルトガルの南部アルガルヴェ地方にあるアウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルヴェでFIM女子世界選手権(FIM Women’s Circuit Racing World Championship、以降WCR)の第3戦ポルトガルラウンドが行われた。 【写真はこちら】World WCR 第3戦フォトレポート ●レース1はエレーラが強さを見せ今季4勝目 土曜日のレース1は晴天に恵まれ、気温32度、路面温度44度のドライコンディションの中行われた。 ポールポジションはランキングトップのマリア・エレーラ(KLINT FORWARD FACTORY TEAM)。2位以下にコンマ8秒差をつけるスーパーラップを叩き出し見事ポールポジションを獲得してみせた。 2番グリッドはランキング2位のアナ・カラスコ(EVAN BROS RACING YAMAHA TEAM)、3番グリッドにはサラ・サンチェス(511 TERRA&VITA RACING TEAM)がつけている。 11周の決勝レースはエレーラ、カラスコ、ベアトリス・ネイラ(AMPITO / PATA PROMETEON YAMAHA)、サンチェスのトップ4が抜け出す展開に。 カラスコ、サンチェスやネイラはレースを通してストレートのスリップストリームを利用し、ホームストレートからターン1にかけてエレーラをオーバーテイクしようと試みる。 しかし、続くターン2や3、5においてエレーラのブレーキングがよく、トップに出ることができない。 予選から速さを見せていたエレーラは背後につける3台の攻撃を抑え込み、中盤から終盤にかけても安定したペースを刻んでいく。セクター1から3は全てベストラップを刻み好きの与えない走りで集団を引っ張った。 後方10位争いは7台による大激戦が繰り広げられていた。毎ラップ順位が入れ替わる混戦が続いていたが、残り4周のターン3でイン側にいたエミリー・ボンジー(YART ZELOS BLACK KNIGHTS TEAM)が転倒し、アウト側にいたマロリー・ダブス(SEKHMET MOTORCYCLE RACING TEAM)を巻き込むアクシデントが発生。今回も各集団で入れ替わりの激しいバトルが展開された。 一方、トップ集団は優勝争いと3位表彰台争いのグループに分かれファイナルラップに突入。2位に上がったサンチェスが優勝を狙い攻めるも、トップのエレーラは盤石の入りでそれを阻止。見事トップチェッカーを受け、今季4勝目を挙げた。 サンチェスは自己最高位タイの2位でフィニッシュ、3位にはネイラとのバトルを制したカラスコが入っている。 ●レース2はカラスコが優勝しタイトル争いは僅差の戦いに 日曜日に行われたレース2も天気に恵まれ、気温30度、路面温度45度のドライコンディションとなった。レース1の結果を受けて、ポールポジションはサンチェス、2番グリッドにエレーラ、3番グリッドにネイラ、カラスコは4番グリッドからのスタートとなった。 レース1同様、11周のレース2がスタート。4番グリッドスタートのカラスコが抜群のクラッチミートを決め、一気にトップに浮上する。しかし、エレーラが得意のターン3のブレーキングでトップを奪い返し首位の座を死守。 続くターン3ではテイラー・レルフ(TAYCO MOTORSPORT)とニコール・ヴァン・アスウェーゲン(ANDALAFT RACING)が絡むアクシデントが発生。さらにターン11ではジェシカ・ハウデン(TEAM TRASIMENO)が単独でクラッシュを喫するなど波乱の幕開けに。 ターン3のアクシデントによりレースは赤旗中断。レースは7周に短縮され、スタートと同じポジションでスタンディングスタートで再開された。 再スタートでもエレーラの首位は変わらず、カラスコ、ネイラ、サンチェスの順で1周目をクリア。しかし、2周目のホームストレートでカラスコがトップに立つと、そこから毎ラップ首位が変わる展開となる。 エレーラはターン3やターン5といったブレーキングポイントでカラスコをオーバーテイクしていく。しかし、カラスコが背後についた場合、最終コーナーからコントロールラインにかけて逆転されており、最後の最後で逆転されてしまう状況。 そこでエレーラはポジションを2位に下げ、同じシチュエーションを試すことに。残り3周から2周になる場面でカラスコのスリップにつけるも、コントロールラインまでに前に出ることができなかった。 つまり、エレーラが優勝するには、コースの前半でトップに立ち、できる限りギャップを広げるしかない。エレーラはファイナルラップのターン4でトップに立ち逃げにかかる。 しかし、最終コーナーからホームストレートにかけての加速性能で優位にあることがわかっているカラスコはしっかりエレーラの背後につけ、目論見通りフィニッシュライン目前でトップに浮上。大逆転でトップチェッカーを受けた。 そしてカラスコとエレーラの2台分のスリップを使ったサンチェスもエレーラを刺し2位でチェッカー。エレーラは悔しい3位でのゴールとなった。 トップスピードはわずか1キロしか変わらなかったが、それでもトップ集団の中で1番直線が遅かったエレーラ。レース中に最善の選択をし、実行に移したエレーラも、自身の優位性に気づき、ミスなく計画通りにレースを進めたカラスコも見事だった。 ●平野ルナはアルガルヴェに苦戦も2レースとも完走 ここまで全て未経験のサーキットでの戦いが続いている平野ルナ(TEAM LUNA)。それでもセッティングや走りをサーキットに合わせ込み、ここまで11ポイントを稼ぎ出している。 しかし、今回のアルガルヴェではこれまで以上に苦戦を強いられた。まず、国内では経験のしようのないアップダウンの激しいアルガルヴェ・サーキット。世界でトップクラスの高低差を誇り、体力的にも非常に厳しい同サーキットは、レイアウトのみならず、猛暑・突風といった気象による難しさも兼ね備えている。 前戦のセッティングで挑むもマシンが曲がらずマシンをセットし直して予選に挑むも自身初の最後尾となってしまった。 さらにセッティングを煮詰めていき、レース1では前半でポジションを上げていくことに成功。しかし、後半にはペースダウンし17位でのフィニッシュとなった。 日曜日にはレース1で試したセットからさらに変更を加えレース2に挑む。決勝では接触や転倒で赤旗になる波乱のレースとなったが、ライバルたちとのバトルを繰り広げ19位でゴールした。 途中接触もあり遅れをとるも、最後は接近戦を制しポジションを譲ることなくフィニッシュ。このラウンドが平野にとって最も厳しいレースとなったが、ミスも転倒もすることなく走り切った。 初めてのサーキットでの走行、またはマシンのセッティングをしていく上で、120%で走り、転倒しながらも限界値を見極めてレースに挑むというやり方がある。しかし、それはチームがワークスレベルの充実した体制でないと難しい。 これまで伝えてきているように、平野はメカニックとの二人三脚で戦っている。今の状況では少しでもマイレージを稼ぐこと、セッティングを大きく外さないことが重要。平野はこれまで一度も転倒することなく、セッティングを煮詰め結果を残してきている。未経験のサーキットで、限られた環境の中これをこなすことは容易ではない。数字では測れない平野の凄さである。 今回は苦戦を強いられたが、9月20日から22日にかけて行われる次戦イタリアラウンドはこれまで以上の結果が期待できる。なぜなら戦いの舞台であるクレモナ・サーキットは平野が唯一走行したことがある場所だからだ。 公式テストの地であったクレモナ。この公式テストでも十分に走り込めたわけではない。しかし、これまで未経験のサーキットで結果を残しているだけに、今季最高順位を期待せずにはいられない。 次戦ではポイントや順位はもちろんだが、平野自身がレースでこれまで以上に攻めることができるレースになることを期待したい。
河村大志