京都の“豊富な水源”を守る古社|貴船神社【「水のみやこ」の歴史と文化を訪ねる】
三方の山から流れる清らかな川や豊富な地下水脈に恵まれる「水のみやこ」。この町に名高い産業や文化を次々と花開かせた名水の存在とは。水が育んだ都の「今」を垣間見る。 写真はこちらから→京都の“豊富な水源”を守る古社|貴船神社【「水のみやこ」の歴史と文化を訪ねる】
水神を祀る全国500社の総本宮。京都の“豊富な水源”を守る古社
鴨川は京都盆地の北の縁から流れ出る沢が幾筋も集まった川だ。その源流の一本、貴船川上流にあるのが貴船神社である。全国に約500社ある貴船神社の総本宮。創建は古い。社伝によれば天武天皇時代の白鳳6年(677)にはすでに社殿の造替が行なわれていたという。平安遷都より1世紀以上も前のことだ。 主祭神は高龗神(たかおかみのかみ)。江戸初期の儒学者林羅山は『本朝神社考』の中で「高龗は龍神の類なり」と記している。龍神は水神だが、高龗はそれよりも古い水神とされる。 龗という字をよく見ると、龍の上に3つの口が並び、その上を雨が覆っている。並んだ口は祭祀の器物で、雨乞いの神事を表現したものと考えられている。 貴船神社が鴨川の流れや京都盆地の降雨・止雨を統御する北の守護神であることを知った平安朝廷は、以来、高龗の神に帰依する。 日照りや長雨が続くと、歴代の天皇は勅使を差し向けた。その際、降雨祈願なら黒い馬を、止雨祈願のときは白い馬を奉納した。いずれも生きた馬だが、この伝統はいつしか簡略化し板に馬を描いた「板立馬」に変わる。今ではどの神社でも見られる絵馬の起こりだ。
千年先まで文化を残す
冷気あふれる谷奥にひっそり佇む貴船神社だが、近年の観光客の増加は“水源の地”に難しい判断も迫っている。貴船神社権禰宜の古市竣さん(35歳)によると、参道や境内に人の往来が激しくなったことで、砂利の下まで地面が踏み固められ、雨水が地下にまで浸透しにくくなったそうだ。このため、一時は濁った水が川に入ったり、樹木の生長に悪影響が及んだりしたという。 「そこで、3年ほど前から、境内の小砂利を取り除き、土を掘り返して藁や燻炭、落ち葉、ウッドチップなどを投入し、透水性がある古瓦を砕いたものを敷き直しました。すると御神木の桂の葉が大きく、元気になってきました。紅葉もより鮮やかになってきています」 異常化する気象も水源の地にとっては脅威だ。平成29年の台風21号では、貴船神社を含む北山一帯で倒木や崩落による災害が多数発生し、その爪痕はまだ癒えていない。貴船神社は古より自然と一体になってきた聖地で、森全体が神域である。そして、森から滴り出た水の流れる先には100万人の大都市がある。 「今の京都の暮らしや文化を千年先まで残すために、私たち世代が力を合わせて自然をよい方向へ引き戻す必要があります」(古市さん) 代々水を司どってきた神社の、新たな祈りの始まりである。 貴船神社 京都市左京区鞍馬貴船町180 電話:075・741・2016 参拝時間:6時~20時(5月1日~11月30日)、~18時(12月1日~4月30日) 境内自由 交通:叡山電鉄貴船口駅下車、徒歩約30分
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